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歯周病に効く歯磨き粉はある?選び方とおすすめ成分を歯科医が解説します

2025.11.06

ファミリー⻭科

歯周病に効く歯磨き粉はある?選び方とおすすめ成分を歯科医が解説します

「最近、歯ぐきから血が出る」「口臭が気になる」「歯が少しグラグラする気がする」――そんな症状を感じていませんか?
それは、もしかすると歯周病(ししゅうびょう)のサインかもしれません。

歯周病は、歯と歯ぐきの間に溜まったプラーク(歯垢)に棲みつく細菌が原因で起こる炎症性の病気です。初期には痛みがほとんどないため、気づかないうちに進行してしまうことが多く、日本人の成人の約8割が何らかの歯周病にかかっているといわれています(厚生労働省「歯周病の現状」より)。

歯周病は放置すると歯を支える骨(歯槽骨)が溶け、最終的には歯が抜けてしまうこともあります。全身にも影響を及ぼすことが知られており、糖尿病や動脈硬化、誤嚥性肺炎などとの関連も報告されています。

そのため、毎日のセルフケアで歯周病を予防・改善することがとても大切です。中でも、歯磨き粉は手軽にできるケアの一つとして、多くの方が日常的に使用しています。
しかし、ドラッグストアなどに並ぶ歯磨き粉の種類は実に多く、「どれを選べばいいのかわからない」という声も少なくありません。

実は、歯周病に適した歯磨き粉には殺菌成分・抗炎症成分・バイオフィルム抑制成分など、歯ぐきの健康を守るための有効成分が含まれています。正しく選び、使い方を工夫することで、歯ぐきの炎症を抑え、歯周病の進行を防ぐことができます。

この記事では、歯周病の改善に効果が期待できる歯磨き粉について、わかりやすく解説します。

  • 歯周病の原因と歯磨き粉の役割
  • 歯周病に効果的な成分と選び方
  • 正しい歯磨き粉の使い方
  • 歯科医院でのケアとの組み合わせ方

毎日のケアに取り入れることで、将来の「歯を失うリスク」を大きく減らすことができます。

 

監修した先生

奈良 倫之先生

奈良 倫之 先生

医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長

第1章 歯周病の原因と歯磨き粉の役割

歯周病とは、歯の周囲にある歯ぐき(歯肉)や歯を支える骨(歯槽骨)が、細菌によって炎症を起こす病気です。初期は歯ぐきの腫れや出血だけですが、進行すると歯を支える組織が壊れ、最終的には歯が抜け落ちてしまうこともあります。

この病気の根本的な原因は「プラーク(歯垢)」です。プラークは、食べかすではなく歯の表面に付着する細菌のかたまりで、わずか1mgの中に数億個もの細菌が存在するといわれています。これらの細菌が歯ぐきに炎症を起こし、慢性的な感染を引き起こすのです。

さらに、プラークが唾液中のカルシウムと結合して硬くなると「歯石」に変化します。歯石の表面には新しいプラークが付きやすく、悪循環が生まれます。歯石は歯ブラシでは落とせないため、歯科医院でのクリーニングが必要になります。

歯磨き粉の主な役割

歯磨き粉は、単に「口をスッキリさせるためのもの」ではありません。
歯磨きの目的であるプラークの除去を補助すること、そして歯ぐきの炎症を抑えることが最大の役割です。

歯周病に適した歯磨き粉には、次のような働きがあります。

歯磨き粉の役割

役割 主な効果
殺菌 歯周病菌を抑制し、炎症の原因を減らす
抗炎症 歯ぐきの腫れや出血を鎮める
再付着防止 プラークの再形成を防ぐ
歯質強化 フッ素などにより歯を強くする
口臭予防 歯周病に伴う不快な臭いを軽減する

つまり、歯磨き粉は“治療薬”ではなく、“歯周病の進行を防ぐサポート役”です。
正しいブラッシングと組み合わせてこそ、初めて効果を発揮します。

歯周病は生活習慣病の一種

近年、歯周病は「口の中だけの問題」ではなく、生活習慣病の一種と考えられるようになりました。
不規則な生活や喫煙、糖尿病などの全身疾患は、歯周病の進行を早めることがわかっています。
とくに糖尿病と歯周病は相互に悪影響を与える関係にあり、歯周病の悪化が血糖コントロールを乱すという研究結果もあります。

このように、歯周病を防ぐことは「歯を守る」だけでなく、「体全体の健康を守る」ことにもつながります。
毎日の歯磨き習慣の中で、適切な歯磨き粉を選ぶことは、健康寿命を延ばすための第一歩といえるでしょう。

歯周病の予防・改善には、自分の症状や目的に合った歯磨き粉を選ぶことが欠かせません。
次章では、歯周病に効果的な歯磨き粉の「成分」と「選び方」について、もう少し詳しく見ていきましょう。

第2章 歯周病に効果的な歯磨き粉の成分と選び方

歯周病の予防や改善を目的とする歯磨き粉には、さまざまな有効成分が配合されています。これらは「医薬部外品」として厚生労働省に認可された成分であり、歯ぐきの炎症を抑えたり、歯周病菌の繁殖を防いだりする作用があります。ここでは代表的な成分とその特徴、そして症状に合わせた選び方を紹介します。

歯周病に効果的な主要成分一覧

歯周病に効果的な成分

成分名 主な作用 解説
IPMP(イソプロピルメチルフェノール) 殺菌 プラーク内部(バイオフィルム)まで浸透し、歯周病菌を直接殺菌する。歯周病初期のケアに有効。
CPC(塩化セチルピリジニウム) 殺菌・口臭予防 細菌の細胞膜を破壊し、口内の菌数を減らす。口臭が気になる方にもおすすめ。
トラネキサム酸 抗炎症・止血 歯ぐきの炎症や出血を抑える。腫れやすい・血が出やすい歯ぐきに適している。
グリチルリチン酸ジカリウム(またはβ-グリチルレチン酸) 抗炎症 甘草由来の成分で、歯ぐきの炎症をやさしく抑える。長期使用にも向く。
塩化ナトリウム(NaCl) 血行促進 歯ぐきの血流を改善し、引き締め効果をもたらす。マッサージ時の併用に有効。
フッ化ナトリウム(NaF) 歯質強化 虫歯予防に加え、歯の表面を強化し、歯周病で弱った歯の根元を守る。
アラントイン 組織修復 炎症部位の修復を促進。歯ぐきの再生を助けるサポート成分。

 

歯周病の症状別・歯磨き粉の選び方

歯周病といっても、症状の段階によって適した歯磨き粉は異なります。
自分の状態に合わせて、以下のように選びましょう。

症状に合う歯磨き粉の成分

状態 おすすめの成分・タイプ ポイント
歯ぐきが腫れて出血する(初期) トラネキサム酸、グリチルリチン酸 炎症を抑え、出血を軽減するタイプを選ぶ。低刺激で泡立ちの少ない製品がおすすめ。
口臭が気になる CPC、IPMP、メントール系清涼成分 口臭の原因となる歯周病菌や揮発性硫黄化合物(VSC)を抑える。殺菌力を重視。
歯ぐきが下がってきた・歯がしみる フッ化ナトリウム、アラントイン 知覚過敏を和らげ、根面を保護する成分が有効的。研磨剤無配合のジェルタイプも良い。
進行を食い止めたい・再発予防したい IPMP+トラネキサム酸配合 殺菌と抗炎症を両立したタイプ。日常的に継続使用することが大切。

 

「医薬部外品」表示を確認しよう

歯周病ケアを目的とした歯磨き粉を選ぶ際には、パッケージに「医薬部外品」と表示されているかを確認することが重要です。
「医薬部外品」は厚生労働省に有効成分として効果が認められた製品で、単なる化粧品よりも確かな効果が期待できます。

また、製品によっては「歯周病予防」「歯ぐきのはれ・出血を防ぐ」「口臭を防ぐ」といった効能が記載されています。これらの表記があるかどうかもチェックしましょう。

刺激の強さや使用感も考慮

有効成分が豊富でも、刺激が強すぎると続けにくくなります。
特に歯ぐきが腫れているときは、アルコール(エタノール)を含まない低刺激タイプを選ぶと良いでしょう。
逆にスッキリ感を求める場合は、メントールや香料入りを選ぶことで、磨いた後の爽快感が得られます。

また、ペースト状のほか、泡タイプやジェルタイプもあります。
歯ぐきの炎症がある場合はジェルタイプの方がやさしく行き渡りやすく、歯間ブラシにも使いやすいのが特徴です。

成分だけでなく“継続”が大切

歯周病対策において最も重要なのは、「どんな歯磨き粉を使うか」ではなく、「毎日継続して正しく磨くこと」です。
たとえ高価な製品でも、1日1回しか使わなければ効果は半減します。
1日2〜3回、朝・夜・就寝前を中心に丁寧に磨くことで、成分が歯ぐきに長く作用しやすくなります。

次章では、歯周病ケア歯磨き粉の正しい使い方と磨き方のコツについて解説します。
どんなに優れた成分でも、使い方を誤ると十分な効果が得られません。

第3章 歯周病ケア歯磨き粉の正しい使い方

どんなに優れた歯磨き粉を使っても、磨き方が間違っていれば効果は半減してしまいます。
歯周病ケアでは「どのように使うか」「どこを磨くか」がとても大切です。
ここでは、歯周病を予防・改善するための正しい歯磨き粉の使い方を紹介します。

歯磨き粉の量と使うタイミング

歯磨き粉の適量は、大人の場合、歯ブラシの毛先に12cmほどが目安です。
量が多すぎると泡立ちが強くなり、磨き残しが出やすくなります。
とくに歯周病ケアの場合、歯ぐきと歯の境目を丁寧に磨くことが重要なので、泡で見えにくくならないよう少量から試すのがおすすめです。

また、1日1回の歯磨きでは不十分です。
歯周病菌は24時間以内に増殖を始めるため、朝・夜・就寝前の3を基本に、特に「就寝前」のケアを重視しましょう。
睡眠中は唾液の分泌が減り、細菌が繁殖しやすい状態になるため、寝る前に歯周病菌を減らしておくことが大切です。

正しいブラッシング方法 ポイントは“歯ぐきのキワ”

歯周病ケアでは、歯と歯ぐきの境目(歯周ポケット周辺)にたまるプラークを落とすことが最大の目的です。
この部分を丁寧に磨くことで、歯周病の進行を食い止めることができます。
以下の手順で行いましょう。

  • 最初に歯間ブラシやフロスで歯と歯の間を磨く(はじめに歯間ブラシに歯磨き粉を少量つけて間を通す事で、歯磨き粉の薬用成分が浸透するようにします。
  • 歯ブラシの毛先を歯ぐきに45度の角度で当てる
    歯と歯ぐきの境目に毛先が入り込むようにします。
  • 小刻みに動かす(1〜2mmのストローク)
    力を入れすぎず、軽く振動させるように磨きましょう。
  • 1本ずつ丁寧に磨く意識を
    1か所につき10〜20回程度、時間をかけて磨きます。

歯磨き粉の効果を高める「すすぎ方」

歯磨き後に口を何度もすすぎすぎると、有効成分が流れ落ちてしまいます。
目安は軽く12回すすぐ程度にとどめましょう。
「泡が気になるから」と何度もすすいでしまうと、せっかくの殺菌・抗炎症成分が口内にとどまらず、効果が半減してしまいます。

近年では「うがいを控えめにする磨き方(残留法)」を推奨する歯科医院も増えています。
とくに夜のブラッシング後は軽くゆすぐ程度にして、有効成分を長く残すと効果的です。

歯周病ケアを高める補助アイテム

歯磨き粉と併用することで、歯周病対策をさらに強化できるアイテムがあります。

補助アイテム一覧

補助器具 特徴・使い方
歯間ブラシ 歯と歯の間に入れてプラークを除去。歯ぐきが腫れている場合は柔らかめを選ぶ。
デンタルフロス 歯の隙間のプラークを除去。歯周病初期や口臭対策にも有効。
電動歯ブラシ 手磨きが苦手な方におすすめ。一定の圧力で磨けるので歯ぐきを傷つけにくい。
マウスウォッシュ(洗口液) 歯磨き後に使用すると、口腔内の殺菌を補助。アルコールなしタイプが歯ぐきに優しい。

 

歯ぐきをマッサージする習慣を

歯磨きの際、ブラシを使って歯ぐきを軽くマッサージすることも効果的です。
血流を促進し、歯ぐきの免疫力を高めることで炎症の回復をサポートします。
歯ぐきがやわらかく引き締まり、出血が減る効果も期待できます。

ただし、痛みや強い出血がある場合は自己判断せず、歯科医院で診察を受けましょう。

セルフケアの限界も理解しておこう

歯磨き粉はあくまで歯周病の進行を防ぐサポート役です。
プラークや歯石を完全に取り除くことはできません。
定期的に歯科医院でプロによるクリーニングを受け、歯磨き粉によるホームケアと両立させることで、最も高い効果が得られます。

次章では、歯周病を防ぐために欠かせない歯科医院でのメンテナンスとの組み合わせについて詳しく解説します。

第4章 歯周病を防ぐには歯磨き粉+定期検診がカギ

歯周病のケアにおいて、歯磨き粉は重要な「セルフケア」の一部ですが、それだけでは完璧ではありません。
歯周病菌は歯ぐきの奥深くや歯石の内部にも潜んでおり、歯磨き粉の有効成分だけで取り除くことは難しいのです。
歯周病の進行を防ぐには、歯科医院でのプロフェッショナルケアと定期的な検診を組み合わせることが欠かせません。

定期検診でわかる「隠れた歯周病」

歯周病は、初期の段階では痛みがないため、気づかないうちに進行してしまうことが多い病気です。
そのため、歯科医院での定期検診によって、歯ぐきの状態や歯周ポケットの深さ、出血の有無などをチェックしてもらうことが重要です。

とくに歯周病の進行度は、以下のように「ステージ分類」で評価されます。

歯周病の進行ステージ

ステージ 症状の特徴 歯ぐきや歯の状態 治療・ケアの目安
ステージⅠ(軽度) 歯ぐきが少し赤く腫れたり、歯みがきの時に血が出ることがある 骨の減りはほとんどなく、歯のグラつきもない 正しいブラッシングと歯科医院でのクリーニングで回復が可能
ステージⅡ(中等度) 出血が続き、口臭が気になる。歯ぐきが下がり始める 歯を支える骨がやや減っている。歯が少し動く場合もある 歯石除去や歯ぐきの深い掃除(ルートプレーニング)で改善が期待できる
ステージⅢ(重度) 歯ぐきが大きく下がり、歯が長く見える。食べ物が挟まりやすい 骨の減りが進み、歯のグラつきが明らかになる 専門的な治療が必要。場合によっては外科的処置や部分的な補綴治療を行う
ステージⅣ(最重度) 歯が大きく動く、噛みにくい、見た目も変化する 歯を支える骨が大きく失われ、歯が抜け落ちる危険が高い 抜歯や義歯・インプラントなどの補綴治療を検討。定期的なメンテナンスが欠かせない

参照:日本歯周病学会 歯周病の新分類への対応
https://www.perio.jp/file/news/info_191220.pdf

このように、歯周病は自覚症状が少ないまま進行する「静かな病気」です。
早期に発見すれば、歯磨き粉によるセルフケアと簡単なクリーニングで改善できますが、進行してしまうと歯を失うリスクが高まります。

歯石除去とプロのクリーニングの重要性

歯磨き粉では落とせない「歯石」は、歯科医院で専用の器具(スケーラー)を使って除去します。この処置をスケーリングといい、歯ぐきの炎症を抑えるための基本治療です。
また、歯ぐきの中の根面を滑らかにする「ルートプレーニング」も、細菌の再付着を減らすことができます。

こうした処置を定期的に受けることで、歯磨き粉の効果を最大限に引き出すことができます。とくに中高年層では、歯周ポケットが深くなりやすいため、3〜6か月ごとのメンテナンスを習慣化しましょう。

補綴治療後のメンテナンスも歯磨き粉で

歯周病が進行し、すでに歯を失った場合でも、補綴治療(義歯・ブリッジ・インプラント)によって咀嚼機能を回復できます。
しかし、補綴物の周囲はプラークが溜まりやすく、再び歯周炎を起こすこともあります。そのため、治療後も歯磨き粉によるケアを欠かさず行うことが大切です。

特にインプラントの場合、天然歯よりも炎症に弱いことが知られており、抗炎症成分入りの低研磨タイプの歯磨き粉を使うとよいでしょう。
歯ぐきをやさしくケアしながら、周囲組織の健康を守ることができます。

歯周病は「予防が最良の治療」

歯周病は、一度進行すると元の健康な状態に戻すことが難しい病気です。しかし、早期発見・早期治療によって進行を止めることは可能です。
歯磨き粉による日々のケアと、歯科医院での定期検診・クリーニングを両立させることで、歯を長く保つことができます。
特に40代以降は、歯周病の進行スピードが加速しやすいため、「痛くなったら行く」ではなく「悪くなる前に行く」ことを心がけましょう。

まとめ

歯周病は初期症状が少なく、気づかないうちに進行する病気です。
歯周病ケア用の歯磨き粉には、殺菌や抗炎症などの成分が含まれ、毎日のブラッシングで炎症の予防・改善が期待できます。

ただし、歯周病は歯磨きだけでは治すことはできません。
歯科医院での定期的な歯石除去や歯ぐきのチェックと併用することが何より大切です。
正しい歯磨きとプロのケアを続けることで、歯ぐきの健康と自分の歯を長く守ることができます。

 

作成日 2025年11月5日

参考文献

日本歯周病学会 歯周病の新分類への対応

https://www.perio.jp/file/news/info_191220.pdf

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