入れ歯の費用はいくら?製作・調整・維持にかかる総額を解説します
2025.11.26
ファミリー⻭科
入れ歯の費用と聞くと、「いくらで作れるのか」という点に目が向きがちです。しかし入れ歯を維持するためには作るだけでは終わりません。入れ歯を使い始めてから調整・修理・定期検診が続くため、維持費も含めて判断すべきです。
入れ歯は一度作れば終わりではなく、時間の経過とともに歯ぐきや骨の形が変わり、噛み合わせの微調整が必要になります。最初にかかる製作費よりも、長期的なメンテナンスコストを把握しておく方が、結果的に満足度の高い選択につながります。
また、保険診療と自費診療では費用に大きな差があります。保険の入れ歯は機能回復を目的とした最低限の治療ですが、自費の入れ歯は素材・構造・見た目・装着感にこだわった「自由設計」が可能です。見た目の自然さや快適さを重視する人ほど、自費診療を選ぶ傾向があります。
本記事では、入れ歯の種類ごとの費用相場から、調整・修理・定期検診まで、トータルでどのくらいの費用がかかるのかを解説します。費用の全体像を理解することで、納得できる治療計画を立てやすくなるでしょう。
目次
監修した先生
奈良 倫之 先生
医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長
第1章 保険診療の入れ歯費用
保険診療で作る入れ歯は、国が定めた範囲内で材料や製作工程が決められており、全国どの歯科医院でもほぼ同じ費用になります。最大の特徴は、自己負担が1〜3割で済むこと。素材は主に「レジン(プラスチック)床義歯」で、見た目や耐久性よりも「咀嚼機能の回復」を目的とした、標準的な入れ歯です。
保険診療の費用目安
| 項目 | 内容 | 自己負担額(3割負担の目安) |
|---|---|---|
| 部分入れ歯 | 欠損歯の本数により設計が変わる。金属バネ(クラスプ)付き。 | 約5,000~15,000円 |
| 総入れ歯(片顎) | 上顎または下顎全体を覆うタイプ。レジン床が基本。 | 約10,000~20,000円 |
| リベース(裏打ち) | 歯ぐきの形が変化した際の内面調整。 | 約3,000~5,000円 |
| 義歯修理 | 割れ・欠け・人工歯の付け替えなど。 | 約2,000~5,000円 |
保険適用の入れ歯は初期費用が比較的安く、修理や再製作も低コストに抑えられます。特に総入れ歯の場合、1万円前後から作製できる点は大きな魅力でしょう。
再製作や修理にも保険が適用できる場合があります。例えば、割れた義歯の修復や人工歯の付け替えなどは自己負担で2,000〜5,000円ほど。口の形が変わって合わなくなった場合は、「リベース(裏打ち)」という修正も保険で対応できます。
ただし、プラスチック床は厚みがあり、熱の伝わりが悪いため、食事の温度感覚が鈍く感じることあります。自費診療の入れ歯に比べると割れやすく、半年から数年ごとに再製作が必要になるケースも少なくありません。
そのため、保険の入れ歯は「費用を抑えてまず試したい」「当面の入れ歯として使いたい」という方に向いています。長く快適に使いたい場合は、次章で紹介する自費診療の入れ歯を検討する価値があります。
第2章 自費診療の入れ歯費用
自費診療の入れ歯は、素材・構造・デザインを自由に選べるのが最大の特徴です。保険の制限がないため、見た目の自然さや装着感、耐久性などに優れ、「快適さを長く維持したい」「自然な笑顔を取り戻したい」と考える方にとっては大きなメリットがあります。一方、価格は高額になります。
自費診療で選べる入れ歯の種類と費用目安
| タイプ | 特徴 | 費用の目安(片顎) |
|---|---|---|
| 金属床義歯 | 床部分にチタンやコバルトクロムなどの金属を使用。薄くて丈夫で、熱伝導性が高い。 | 約50万~100万円 |
| ノンクラスプデンチャー | 金属のバネを使わず、見た目が自然。軽く柔らかい素材で違和感が少ない。 | 約10万~30万円 |
| シリコーン義歯 | 床の内面に弾力性のあるシリコーンを使用。歯ぐきに優しく、痛みを感じにくい。 | 約20万~40万円 |
| 金属+ノンクラスプ複合型 | 金属床の強度とノンクラスプの審美性を兼ねたハイブリッド設計。 | 約50万~100万円 |
自費診療が高額になる理由
自費の入れ歯は、使う素材の原価が高いだけでなく、歯科技工士によるオーダーメイド製作に時間と技術を要します。
例えば金属床義歯は、わずか1mm以下の厚みで均一に仕上げるため、熟練した技術が必要です。
また、金属の種類(チタン・コバルトクロム・白金加金など)や設計精度によっても価格差が生じます。
さらに、歯科医院独自の保証制度(2年間の無料修理など)を設けている場合、その分のコストも加味されています。
自費入れ歯のメリットと注意点
自費診療の入れ歯は、保険の入れ歯に比べて薄く仕上げられるため、発音や咀嚼時の違和感が少なく、割れにくく長持ちするという利点があります。熱をよく伝えるため、料理の温かさや冷たさも感じやすく、味覚を自然に保てます。審美性にも優れ、笑ったときに金属が見えることもありません。
一方、製作費が数十万円に及ぶこと、完成までに複数回の通院が必要になることは注意しましょう。自由診療であるため、歯科医院ごとの設計方針や技術力の差によって仕上がりの満足度が変わることもあります。
メリット
- 厚みが薄く、発音や食事の際の違和感が少ない
- 熱が伝わりやすく、味覚が損なわれにくい
- 割れにくく、長期間使用できる
- 審美性が高く、自然な笑顔を保ちやすい
注意点
- 製作費が高額(数十万円〜)になる
- 納期が長く、複数回の通院が必要
- 医院ごとの技術差・設計方針により、仕上がりに違いが出る
自費の入れ歯は長期的に見れば、修理や再製作の頻度が少なく、結果的にトータルコストを抑えられる場合もあります。見た目の自然さや快適な装着感を求める人にとっては、費用に見合う価値がある選択といえるでしょう。次章では、こうした入れ歯を長く快適に使うために欠かせない「調整・修理・リライニング」の費用について詳しく解説します。
第3章 調整・修理・リライニングの費用
入れ歯は完成して終わりではなく、定期的な「調整」や「修理」が必要になります。人の歯ぐきや顎の骨は年齢とともに少しずつ変化し、入れ歯が合わなくなることがあるためです。とくに新しい入れ歯を入れてから1〜2か月は、口内の形や噛み合わせが不安定で、数回の微調整を行い快適性を向上させます。
調整・修理・リライニングの費用一覧
| 項目 | 内容・目的 | 費用の目安(保険) | 費用の目安(自費) | 備考・ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 調整(微調整) | 入れ歯の当たりや噛み合わせを整える。痛み・違和感の軽減。 | 約500~1,000円/回 | 無料~3,000円前後(医院により保証内対応あり) | 装着初期は数回必要になることが多い。 |
| 義歯修理 | 割れ・欠け・人工歯の脱離などを補修。 | 約2,000~5,000円 | 約10,000~100,000円 | 素材によっては再接着が難しく、新規製作が必要な場合も。 |
| リベース(裏打ち) | 内面に新しい樹脂を追加し、歯ぐきの形に再適合させる。 | 約3,000~5,000円 | 約10,000~30,000円 | 入れ歯の吸着性を回復。数年ごとに行うと長持ち。 |
| リライニング | 床全体を薄く削り、再成形して密着度を高める。 | 約3,000~5,000円 | 約10,000~30,000円 | 口内変化に合わせて再フィット。違和感や痛みの軽減。 |
| 再製作 | 修理で対応できない破損や変形時の作り直し。 | 約10,000~20,000円 | 約150,000~600,000円 | 保険では年数制限あり。自費は素材・設計により大幅に変動。 |
調整の費用目安
調整とは、入れ歯が歯ぐきに当たって痛みを感じる箇所を削ったり、噛み合わせを整えたりする作業です。保険診療であれば1回あたり数百円〜1,000円前後の負担で行えます。違和感が取れないまま無理に使い続けると口内炎や顎関節への負担が起こりやすくなるので、気になるときは早めに再調整を受けましょう。
修理の費用目安
修理は入れ歯が破損した場合に行う処置です。人工歯が外れた、床が割れた、バネが折れたなど、症状に応じて修理内容が異なります。保険適用であれば2,000〜5,000円前後で済むケースが多いですが、自費の入れ歯では素材や構造が特殊なため、修理費が1万〜5万円ほどになることもあります。特に金属床義歯やノンクラスプデンチャーは、再接着や補修に高度な技工が必要となり、費用はやや高めです。
リライニングの費用目安
入れ歯を長期間使用していると歯ぐきの形が変化し、入れ歯の内面が浮いたり、吸着力が低下したりすることがあります。この場合に行うのが「リライニング」と呼ばれる再適合処置です。リライニングは入れ歯の裏面に新しい材料を盛り足し、口内の形に合わせ直す方法で、費用は保険で約3,000〜5,000円、自費で行う場合は1万〜3万円が目安です。リライニングを定期的に行うことで、入れ歯を長く快適に使うことができます。
調整や修理にかかる費用は、初期の製作費に比べれば少額ですが、長い期間使用するなら何度も行います。特に10年以上使うことを想定する場合、こうしたメンテナンス費をあらかじめ見込んでおきましょう。今後はインフレで費用がさらに上がることが予想されるため、余裕のある予算を組みましょう。
自費の入れ歯を選ぶ場合は、医院によって無料のアフターケアや保証制度を設けていることがあります。契約する前に「どの範囲まで保証が含まれているか」を確認しておくとよいでしょう。
調整や修理を怠ると入れ歯の安定性が損なわれ、噛み合わせのズレや顎の痛みを引き起こすことがあります。入れ歯を長持ちさせるためには、「作った後のフォローアップ」が最も重要です。次章では、定期検診やメンテナンスの費用、通院頻度の目安について詳しく見ていきましょう。
第4章 定期検診とメンテナンス費用
入れ歯を快適に長く使うためには、製作後の定期検診とメンテナンスが欠かせません。多くの人が「一度作れば終わり」と考えがちですが、実際には入れ歯も時間とともに劣化し、口の中の状態も変化していきます。とくに、歯ぐきのやせや顎骨の吸収、噛み合わせの変化は避けられないため、半年から1年ごとに専門的なチェックを受けることが推奨されています。
定期検診とメンテナンス費用一覧
| 項目 | 内容・目的 | 費用の目安(保険) | 費用の目安(自費) | 通院頻度の目安 | 備考・ポイント |
|---|---|---|---|---|---|
| 定期検診 | 入れ歯のフィット感・噛み合わせ・破損や変色をチェック。 | 約1,000~2,000円/回 | 約3,000~5,000円/回 | 6か月~1年に1回 | 早期発見・早期修理で長持ち。 |
| 義歯クリーニング | 義歯表面やバネ部の汚れ・細菌除去。 | 約500~1,000円 | 約1,000~3,000円 | 定期検診時に併用 | カンジダ菌や口臭予防に有効。 |
| 噛み合わせ調整 | 使用中に生じたズレや歯ぐきの変化を補正。 | 約500~1,000円 | 無料~3,000円(保証内容により異なる) | 必要時に随時 | 違和感・痛みの軽減。 |
| リライニング | 内面を再適合させ吸着力を回復。 | 約3,000~5,000円 | 約10,000~30,000円 | 2~3年に1回 | 定期的に行うことで入れ歯の寿命を延ばす。 |
| 自宅でのケア | 義歯ブラシ・洗浄剤を使った日常清掃。 | ― | 洗浄剤1,000円前後(市販) | 毎日 | 清掃不足は口臭・口内炎の原因に。 |
定期検診、クリーニングの費用目安
定期検診では入れ歯のフィット感や咬合状態(噛み合わせ)の確認、破損や変色の有無、歯ぐきの炎症のチェックなどを行います。定期的に検診を行うことでトラブルの早期発見ができ、早めの治療や修理ができます。
定期検診では入れ歯だけでなく、残っている歯や歯ぐきの健康状態を保つためのクリーニングも行います。義歯の裏側やバネの部分には汚れがたまりやすく、放置すると口臭やカンジダ菌による口内炎の原因にもなります。
費用の目安として、保険診療での定期検診は1回あたり1,000〜2,000円前後が一般的です。内容は診察料・噛み合わせ調整・簡単なクリーニングが中心で、必要に応じてリベースや修理費が追加されます。自費診療の場合は医院によって幅があり、1回あたり3,000〜5,000円程度で、より丁寧な清掃や専用の洗浄機器を用いたメンテナンスが含まれることもあります。
自費の入れ歯を選んだ方の中には、定期検診を年2〜3回受けているケースも少なくありません。高価な入れ歯ほど、初期の状態を長く維持するためのメンテナンスが欠かせません。特にノンクラスプデンチャーや金属床義歯などは、わずかな変形や汚れでも装着感に影響するため、専門的な調整や洗浄を続けることが求められます。
日々続けるセルフケアも考慮を
家庭でのセルフケアもメンテナンスの一部です。専用の義歯ブラシや入れ歯洗浄剤を使用し、毎日清掃することで細菌の繁殖を防ぎます。入れ歯洗浄剤、歯ブラシや専用の歯磨き粉、デンタルフロスなど、費用は数百円から数千円までまちまちです。
歯科医院では、清掃が難しい部分の除菌処理や超音波洗浄を行うことがあり、これらを定期的に受けることで衛生状態を良好に保つことができます。
入れ歯を長く快適に使うためのポイントは、「異常が出てから行く」よりも「問題が起こる前に診てもらう=定期検診する」ことです。痛みやぐらつきを感じてからでは、修理に時間や費用がかかることもあります。とくに数年以上同じ入れ歯を使っている場合は、噛み合わせのズレや骨の吸収が進行している可能性があるため、定期検診による早めの対処が大切です。
定期的なメンテナンスは一見小さな出費に思えるかもしれませんが、結果的に再製作の時期を延ばし、総費用を抑えることにつながります。次の章では、費用のバランスを考えながら、自分に合った入れ歯を選ぶための考え方を紹介します。
まとめ 自分が納得できる費用で快適に使うために
入れ歯の費用を考えるとき、最も大切なのは「高いか安いか」ではなく、「自分に合っているか」です。同じ価格帯でも生活スタイルや噛み合わせの状態、審美性へのこだわりによって最適な選択は変わります。
経済性を重視する人には保険の入れ歯が向いていますし、長期間にわたって快適に使いたい人、審美性にこだわりたい人には自費診療の入れ歯が適しています。費用と効果のバランスを自分自身で理解し、納得して選ぶことです。
入れ歯は「作って終わり」ではなく、「育てていく道具」であるということです。丁寧なメンテナンスを続ければ、10年以上快適に使える場合もあります。自分に合った費用で、無理なく、安心して使い続けられる入れ歯を選ぶこと。それが、長く健やかな口元を保つための最良の方法といえるでしょう。
入れ歯は「どの素材を選ぶか」「どこにこだわるか」で、快適さ・持ち・見た目が大きく異なります。
本記事では概要を説明しましたが、より細かい素材比較や実際の設計例を知りたい方のために、高品質な入れ歯の設計ポイントをまとめた専門的な解説ページもあります。「もっと詳しく理解したい」という方は参考資料としてご覧ください。
作成日 2025年11月24日
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