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奥歯を失ったらどうする?保険・自費の入れ歯をわかりやすく比較

2025.12.03

ファミリー⻭科

奥歯を失ったらどうする?保険・自費の入れ歯をわかりやすく比較

奥歯は、食べ物を細かくすりつぶすために欠かせない「咀嚼の要(かなめ)」です。1本でも失うと噛み合わせのバランスが崩れ、残っている歯や顎の関節に大きな負担がかかります。そのまま放置すると隣の歯への倒れ込み、噛み合う歯が伸びるなどトラブルが起こり、歯列全体がゆがむこともあります。歯列がゆがむと顎関節症や肩こり、頭痛、腰痛などの全身症状に広がるケースも少なくありません。

また、奥歯がないとしっかり噛めないため、消化に悪影響を与えてしまいます。硬いものを避けるようになり、栄養バランスも崩れがちになります。噛む刺激が減ると脳の活性も低下し、認知機能の維持に影響を及ぼすといわれています。咀嚼と認知機能の関連性が示唆されている研究もあり、しっかり噛むことで脳の活性を保つとされています。

奥歯を補う治療のなかでも、入れ歯は多くの方に選ばれています。インプラントやブリッジと比べて負担が少なく、幅広い症例に対応できます。
この記事では奥歯の入れ歯の役割と、その選び方をわかりやすく解説していきます。

 

監修した先生

奈良 倫之先生

奈良 倫之 先生

医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長

第1章 奥歯の入れ歯の種類と特徴

奥歯の入れ歯は、大まかには「保険適用」と「自費(自由診療)」の2つに分類されます。どちらも「噛む力を補う」という目的は同じですが使用する素材や装着感、見た目の自然さに違いがあります。

入れ歯の種類と特徴

入れ歯の種類 主な素材 特徴 メリット デメリット 費用目安(片顎)
保険の入れ歯(レジン床義歯) プラスチック(レジン) 厚みのある土台(ベース) 保険適用で安価に作製できる/多くの症例に対応 厚みがあり違和感が出やすい/割れやすい 約5,000〜15,000円(保険3割負担時)
金属床義歯 コバルトクロム/チタンなど 歯ぐき部分が金属製で薄く軽い 食事の温度を感じやすい/強度・耐久性が高い 保険適用外で費用が高い/金属アレルギーの懸念 約50万〜100万円
ノンクラスプデンチャー 弾性樹脂(ナイロン系など) 金属バネを使わず自然な見た目 見た目が自然で目立たない/軽く柔らかい装着感 経年劣化で変色・たわみが起こることがある/修理が難しい 約10万〜30万円

保険の入れ歯(レジン床義歯)は歯ぐき部分がプラスチック製で、比較的安価に作れるのが特徴です。ただし厚みがあり、装着時に違和感が出やすいことと、耐久性がやや劣る点がデメリットです。入れ歯に厚みがあるから熱が伝わりにくく、食事の味を感じにくいと感じる人もいます。

金属床義歯は歯ぐきに触れる部分を金属で作るため、薄くて軽く、熱が伝わりやすいのが特徴です。食べ物の温度を感じやすく、自然な装着感を求める方に向いています。金属アレルギーのリスクがありますが、金属アレルギーの心配が少ないチタン製なども選べます。

近年注目を集めているのがノンクラスプデンチャーです。金属のバネ(クラスプ)を使わず、透明やピンク色の樹脂で固定するため、見た目が非常に自然です。軽くて柔らかいため、装着時の違和感も少ないのが特徴です。ただ劣化しやすく、金属床義歯に比べると寿命は短い傾向があります。

このように、奥歯の入れ歯は素材や構造によって快適さが大きく変わります。次章では、どのようなポイントを重視して選ぶべきかを詳しく見ていきましょう。

第2章 奥歯の入れ歯で重視すべきポイント

奥歯の入れ歯は「噛む力を取り戻す」ことが目的ですが、単に装着すれば良いわけではありません。快適に長く使うためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。

噛み合わせのバランスを整える

奥歯は咀嚼時に最も力がかかる部分です。左右どちらかに偏ると入れ歯が浮き、外れやすくなる原因になります。
両側に支えを作る「両側支持型」の設計にすることで、安定性が高まります。

支台歯(バネをかける歯)の位置を慎重に選ぶ

残っている歯の状態に合わせてクラスプ(入れ歯を保定する金属バネ)をかけます。
適切な位置にクラスプを設けると入れ歯がズレにくく、噛む力を均等に分散できます。

素材とフィット感を重視する

金属床義歯は薄くて丈夫、熱を感じやすいという利点があります。
一方、ノンクラスプデンチャーは柔らかく装着感に優れますが、耐久性にやや劣ります。
素材選びは、生活習慣や口内の状態に合わせて決めると後悔がないでしょう。自費の入れ歯は高価な装置です。慎重に選びましょう。

清掃性とメンテナンスのしやすさを確認する

入れ歯の内側には汚れが溜まりやすく、細菌が繁殖するリスクがあります。
取り外しやすく、清掃しやすい構造のものを選びましょう。

「見た目」より「噛む機能」を優先する

見た目の美しさも大切ですが、奥歯の入れ歯はまず機能性を重視すべきです。奥歯は口を開けても見えにくく、咀嚼に欠かせない部位です。
歯科医と相談しながら、見た目と機能の両立を目指しましょう。

第3章 奥歯の入れ歯の費用と保険・自費の違い

入れ歯の費用は、保険診療か自費診療かによって大きく異なります。見た目や噛み心地、素材の自由度が変わるため、費用だけでなく目的に合わせて選ぶことが大切です。

奥歯の入れ歯費用一覧

区分 入れ歯の種類 主な素材 特徴 費用目安(片顎) 向いている人
保険 レジン床義歯 プラスチック(レジン) 厚みがあり丈夫だがやや重い。修理しやすく多くの症例に対応できる。 約5,000~15,000円(3割負担) 費用を抑えたい方
自費 金属床義歯(コバルトクロム・チタンなど) 金属(コバルトクロム、チタンなど) 薄くて軽く、熱伝導がよい。強度・耐久性に優れる。 約15万~50万円 長期使用を考える方/自然な装着感で求める方
ノンクラスプデンチャー 弾性樹脂(ナイロン系など) 金属のバネを使わず自然な見た目。軽く柔らかい。 約10万~30万円 見た目を重視する方/金属アレルギーの方
シリコーンデンチャー(コンフォート義歯) シリコーン+レジン 裏面が柔らかく、歯ぐきに優しい。痛みが出にくい。 約20万~40万円 歯ぐきが薄い方/装着時の痛みが気になる方
磁性アタッチメント義歯 磁石+金属床・樹脂 残存歯に磁石を装着し強力な吸着力で安定。見た目も自然。 義歯本体10万~50万円+磁石1本10万円など 入れ歯が外れやすい方/固定力を重視する方

保険の入れ歯

保険診療で作る入れ歯(レジン床義歯)は、必要最低限の機能を回復させることを目的としています。素材はプラスチックで、厚みがあるためやや違和感を覚えやすいものの、修理がしやすく多くの症例に対応できるメリットがあります。
費用は3割負担の場合でおよそ5,00015,000円前後と比較的リーズナブルです。

自費の入れ歯

自費診療では、素材や設計を自由に選べます。代表的なものは以下のとおりです。

金属床義歯

床部分が金属で作られており、薄くて軽く、熱伝導率が高いため食事の温度を感じやすいのが特徴です。
コバルトクロム製は耐久性に優れ、チタン製は軽くアレルギーリスクが少ない素材です。
費用は50万〜100万円前後が目安。長期間使用できるため、結果的にコストパフォーマンスが高いタイプです。

ノンクラスプデンチャー

金属のバネを使わず、透明感のある樹脂で固定する入れ歯。
見た目が自然で「入れ歯と気づかれたくない」方に人気があります。軽くて柔らかいため装着感に優れますが、耐久性はやや低く、変形や変色が起こる場合もあります。
費用は10万〜30万円程度が一般的です。

磁性アタッチメント義歯

残っている歯の根に磁石を埋め込み、入れ歯側と磁力で吸着させる特殊な入れ歯。
磁力で固定するためバネを使わず、見た目が自然です。固定力が強く、外れにくいのが特徴です。
費用は1歯あたり10万円ほど+義歯本体代(10万〜50万円程度)が目安です。

費用比較のポイント

自費の入れ歯は初期費用が高めですが、快適さや耐久性を考えると長期的にはコストパフォーマンスに優れます。見た目の自然さや噛む力の安定を重視する方に向いています。

患者さんの生活スタイルや優先順位に応じて、歯科医と相談しながら最適なタイプを選びましょう。

第4章 装着後のトラブルとメンテナンス方法

奥歯の入れ歯は、作って装着すれば終わりではありません。快適に使い続けるためには、定期的な調整とお手入れが欠かせません。ここでは、装着後によくあるトラブルと、その予防・対処法を解説します。

よくあるトラブル

痛み・擦れが出る

入れ歯の縁や床が歯ぐきを圧迫している場合があります。初めて装着して数日経っても痛みが取れない場合は、無理せず早めに歯科医院で調整を受けましょう。

入れ歯が外れやすい・ズレる

長期間入れ歯を使っていると噛み合わせの変化が起こり、歯ぐきが痩せてフィット感が低下します。裏打ち(リライン)や再調整で改善できます。

片側でしか噛めない・噛みにくい

義歯の高さやバランスが合っていない場合に起こります。噛み合わせの再調整で、左右のバランスを整えることが大切です。

発音しにくい・話しづらい

入れ歯の厚みや舌の動きが影響して発音がしにくくなることがあります。
発音練習や調整で改善可能です。数週間経っても慣れない場合は受診しましょう。

口臭や汚れが気になる

入れ歯や口腔内の清掃不足が原因で、細菌やカビが繁殖することがあります。
専用ブラシや洗浄剤を使い、毎日しっかり洗浄しましょう。

食べ物が挟まりやすい

入れ歯と歯ぐきのすき間が原因です。義歯の内側を調整して密着度を高めることで改善できます。

金属アレルギーの発症、金属の味が気になる

金属床義歯の素材による反応が考えられます。チタン製や樹脂製への変更を歯科医と相談してください。

変色・割れ・歪みが起こる

長期使用や乾燥、落下などが原因です。乾燥を避け、水または洗浄液に浸して保管し、破損時は自己修理せず、できるだけ早く歯科医院で修理を依頼しましょう。

自宅でできる入れ歯のメンテナンス

  • 毎日の清掃 外したらすぐに流水で食べかすを落とし、専用ブラシで優しく磨きます。
  • 乾燥を避ける 入れ歯は乾燥すると変形することがあります。使用しない時は水や洗浄液に浸けて保管します。
  • 定期検診 少なくとも半年に1回は歯科医院で定期検診を受けましょう。噛み合わせやフィット感を確認し、必要に応じて調整を行います。
  • 自己修理は避ける 接着剤の補修は入れ歯を破損します。必ず歯科で修理を依頼しましょう。

奥歯の入れ歯は、日々のケアと定期的な調整が何より重要です。しっかりメンテナンスを行うことで、快適な咀嚼力と清潔な口内環境を長く維持できます。

まとめ 噛む力を取り戻し、快適な生活を

奥歯の入れ歯は噛む力と健康維持に直結する大切な治療です。
たとえ1本の奥歯でも、失うと噛み合わせのバランスが崩れ、顎関節や消化機能、全身の健康にまで影響します。入れ歯でしっかり噛めるようになることは、食事の満足度を高めるだけでなく、脳の活性や栄養摂取にも良い影響を与えます。

治療方法は、保険のレジン床義歯から自費の金属床・ノンクラスプデンチャーまで多様です。それぞれに長所と短所があり、「どれが一番良いか」ではなく、「自分に合っているか」で判断することが重要です。噛む力、装着感、費用、見た目の自然さ──どの点を重視するかを明確にし、信頼できる歯科医と相談しながら選びましょう。

入れ歯は「どの素材を選ぶか」「どこにこだわるか」で、快適さ・持ち・見た目が大きく異なります。

本記事では概要を説明しましたが、より細かい素材比較や実際の設計例を知りたい方のために、高品質な入れ歯の設計ポイントをまとめた専門的な解説ページもあります。「もっと詳しく理解したい」という方は参考資料としてご覧ください。

また、入れ歯は作って終わりではなく、定期的なメンテナンスが欠かせません。調整を重ねることで、快適さが増し、長持ちします。
奥歯の入れ歯は、「食べる」「話す」「笑う」喜びを取り戻すためのパートナーです。自分に合った入れ歯を大切に使い、健康的で豊かな生活を続けましょう。

 

作成日 2025年11月27日

参考文献

日本補綴歯科学会 一般の方へ「補綴歯科」ってどんな治療?
https://www.hotetsu.com/about.php

日本補綴歯科学会 ―補綴歯科診療ガイドライン― 歯の欠損の補綴歯科診療ガイドライン 追補版
https://hotetsu.com/s/doc/guidelines_20130308.pdf

担当した診療所

ファミリー歯科

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お口のトラブルの原因を丁寧に見極め、ご希望に沿った治療計画をご提案。
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また、歯友会のミッションである「地域に安心と革新をもたらし、健康を未来へつなぐ」という想いのもと、わかりやすい説明と高精度な治療技術の導入にも力を入れています。

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