歯周病は治る可能性がある─軽度〜重度までの治療法と治せる条件を解説します
2025.12.04
ファミリー⻭科
「歯周病は一度かかったら治らない」という話を耳にすることがあるかもしれません。しかし、これは半分正しいのですが、半分は誤解です。歯周病の症状を大幅に抑え込めるケースもあるからです。
歯周病は細菌によって歯ぐきや骨が炎症を起こす病気で、放置すれば進行し続け、歯を失う原因になります。一方で、早期に治療を始めれば炎症を抑え、健康な状態に近づけることは十分に可能です。特に軽度〜中等度の歯周病なら、適切な処置と毎日のケアで「治る」と感じられるほど改善するケースも少なくありません。近年は、従来の治療に加えて「ブルーラジカル」など新しい技術も注目されています。
本記事では、歯周病がどこまで治せるのか、どんな治療で改善できるのかを、最新の知見とともに解説します。「治る」の正しい意味を理解し、自分に合った治療を選ぶための第一歩にしてください。
目次
監修した先生
奈良 倫之 先生
医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長
第1章 歯周病はどこまで治せる?――“治る”の基準を正しく理解する
「歯周病は治るのか?」という疑問は、多くの患者さんが抱える共通の悩みです。歯ぐきが腫れたり、出血したり、口臭が気になったりすると、「もう元に戻らないのでは」と不安になるかもしれません。
歯周病は、風邪のように完全に“ゼロ”にできる病気ではありません。残念ながら現代の医療では歯周病を完治できる治療は、まだないのです。
しかし、適切な治療とケアで歯ぐきの炎症を抑え、健康な状態を維持できる“治るに近い状態”に戻すことは十分可能です。
まず押さえておきたいのが、歯周病治療における「治る」と「完治」の違いです。医学的に“完治”とは、元の組織が完全に復元し、再発のリスクがほぼゼロになる状態を指します。しかし歯周病は、歯を支える骨(歯槽骨)が一度失われると、自然には元に戻りにくいという特徴があります。そのため重度まで進行した場合、「完全に元通り」の状態を目指すことは難しくなります。
では、歯周病が「治る」とは何を指すのでしょうか。
- 歯ぐきの腫れ・出血が消失し、炎症が落ち着いている
- 歯周ポケットが縮小し、細菌が増えにくい環境に改善している
- ぐらつきの進行が止まり、日常生活に支障が出ない
- 定期的なメンテナンスで長期的に安定している
現在の医療における歯周病治療のゴールは「健康な状態を安定的に維持すること」です。日本歯周病学会のガイドラインでも、治療後の安定という状態を重視しています。この安定状態に入れば日常生活で不便を感じることはほとんどなく、再発を抑えることができます。
さらに近年では、従来のスケーリングや外科治療に加えて、ブルーラジカルと呼ばれる新しい細菌除去技術が注目されています。これは光のエネルギーを利用して歯周病菌を破壊する治療で、抗生物質を使わないため耐性菌の心配がありません。
ブルーラジカルは痛みや出血を抑えつつ短時間で施術でき、従来の治療では取り切れなかった細菌を補助的に除去できる点が大きな特徴です。「治る」に近づけるための精度の高い治療として、補助的な選択肢として検討されることがあります。
歯周病が治るかどうかは歯周病の進行度や生活習慣、基礎疾患や喫煙などの習慣、セルフケアがどこまで徹底できるかなど、多くの要因によって左右されます。しかし軽度〜中等度であれば大きく改善できます。重度の歯周病でも適切な治療と継続的なケアで症状を改善、安定させることができます。
第2章 軽度〜中等度の歯周病は治りやすい──初期治療で改善が期待できる理由
歯周病は進行度によって治りやすさが大きく変わります。特に軽度〜中等度の段階では歯ぐきの炎症が浅い場所にとどまっているため治療への反応が良く、多くの方が「治った」と実感しやすいのが特徴です。
この段階での治療は主に、歯周病の原因菌の除去を行います。適切なケアを行えば歯ぐきの腫れや出血、口臭などの症状が大きく改善します。
軽度〜中等度が「治る」と感じやすい理由
• 骨の破壊が少ないため、改善しやすい
歯を支える歯槽骨の減少が軽度であれば、炎症が治まると歯ぐきの引き締まりが期待できます。
• 炎症が浅い層にとどまっている
歯周ポケットが比較的浅く、細菌を除去しやすい状態です。
• 初期治療(基本治療)が高い効果を発揮する
スケーリングやルートプレーニングで細菌の温床を取り除くだけで大きく改善するケースが多く見られます。
初期治療に欠かせない「スケーリング・ルートプレーニング(SRP)」
初期治療で行われる主な治療はSRP(スケーリング・ルートプレーニング) です。
歯石を取り除き、歯の根の表面をなめらかに整えることで、細菌が再び付着するのを防ぐ役割があります。
日本歯周病学会のガイドラインでも、SRPは歯周病治療のもっとも基本的かつ重要な処置として位置づけられています。
出典:日本歯周病学会 歯周基本治療-進め方とポイント P.7
https://www.perio.jp/file/news/info_220415.pdf
SRPは次のような効果が期待できます。
- 歯ぐきの腫れ・出血の減少
- 歯周ポケットの縮小
- 口臭の改善
- 痛みや違和感の軽減
セルフケアが治療結果を左右する
軽度〜中等度の歯周病では、毎日のセルフケアが治りやすさに大きく影響します。歯ブラシだけでは落とせない汚れが多いため、補助清掃具の活用が必須です。
慣れるまで面倒かもしれませんが、習慣化すれば口がスッキリして気分も良くなります。
- デンタルフロス(狭い歯間に適する)
- 歯間ブラシ(隙間が広い部分に効果的)
- 電動歯ブラシ(磨き残しが多い方に)
歯科衛生士によるブラッシング指導で磨き残しが生じやすい場所や癖を把握し、患者さんごとに最適な清掃法を指導します。
歯の清掃で分かりにくい点や慣れないことがあれば、なんでも歯科衛生士に相談して下さい。
ブルーラジカルの併用で改善度が高まることも
近年、初期治療の補助としてブルーラジカルを併用する歯科が増えています。
ブルーラジカルは光エネルギーを利用して歯周病菌を破壊する治療で、次のようなメリットがあります。
- 抗生物質を使わないため耐性菌の心配が少ない
- 痛み・出血が少なく短時間で行える
- SRPで取り切れなかった細菌を補助的に除去できる
- 軽度〜中等度でも導入しやすい低侵襲治療
初期治療と併用することで、細菌数の大幅な減少が期待でき、炎症の治まりが早いケースもあります。
治りにくくなる要因
どれだけ治療が順調に進んでいても、喫煙・糖尿病・ストレスなどの要因があると再発しやすく、治療効果が弱まることがあります。特に喫煙は、歯ぐきの血流を低下させ治癒を妨げるため、治りを妨げることが知られています。
糖尿病など基礎疾患がある場合は、内科と連携して治療を進めることが前提です。
歯周病を悪化させる原因
- 喫煙
- 糖尿病などの全身疾患
- ストレス・睡眠不足
- 磨き残しが多い歯並び
- メンテナンスや定期検診の中断
特に喫煙は、歯ぐきの血流を低下させ、治癒を阻害するため改善に大きな差が出ます。歯周病を悪化させたくなければ、できるだけ禁煙にチャレンジしましょう。
軽度〜中等度の歯周病は、原因の除去と生活習慣の見直しで、大幅な改善が期待できます。早期治療は改善が早いので、気になる症状がある段階で歯科医院を受診しましょう。
第3章 中等度〜重度でも改善できる治療──外科処置・再生療法・ブルーラジカルの役割
歯周病が進行し、歯周ポケットが深くなったり、歯を支える骨(歯槽骨)が失われたりすると、初期治療だけで十分な改善が得られない場合があります。しかし、中等度〜重度の歯周病であっても、適切な治療を組み合わせることで「治ると言って差しさわりないほど安定した状態」を取り戻せる可能性はあります。
本章では、より進行した歯周病に対して行われる外科処置、再生療法、ブルーラジカルについて解説します。
歯周外科治療(フラップ手術)の目的と効果
初期治療でポケットの深い部分に残る細菌を完全に除去するのは難しいため、必要に応じて歯周外科治療(フラップ手術)を行います。
フラップ手術は、歯ぐきを一部開いてポケット内部を直接見える状態にし、根面に付着した歯石や感染組織を徹底的に取り除く治療法です。
外科処置を行うことで、以下のような改善効果が期待できます。
- 深い歯周ポケット内の細菌を確実に除去できる
- 骨の形を整え、汚れがたまりにくい環境を作れる
- 手術後にポケットが浅くなり、セルフケアが容易になる
中等度〜重度の歯周病では、この外科治療が「治るための条件」を整える土台を造ります。
歯を支える組織を回復する「再生療法」
歯周病で失われた骨や歯周組織は、自然にはほぼ元に戻りません。そのため重度の患者さんでは、状態に応じて歯周組織再生療法を検討します。
再生療法には以下のような方法があります。
- エムドゲイン法(タンパク質による再生誘導)
- GTR法(膜を使って骨の再生スペースを確保する治療)
- 人工骨や生体材料の併用
これらの治療はすべての症例に適応できるわけではありませんが、適応条件がそろえば失われた骨が回復します。骨が回復すると歯の揺れが改善し、長期的な安定性が向上します。
光で強力に殺菌するブルーラジカル
外科治療や再生療法と並んで、近年注目されているのが光エネルギーを利用した細菌除去技術ブルーラジカルです。
ブルーラジカルは、薬剤と光を反応させて細菌の細胞膜を破壊する治療法で、「痛みが少ない」「短時間で治療できる」「抗生物質を使わない」という特徴があります。
特に重度の歯周病では、以下の場面で有効とされます。
- 外科処置前の感染源の減量
- 外科治療後の細菌除去補助
- 初期治療後も炎症が残る部位への追加治療
- 抗生物質が使いにくい患者(妊娠中、アレルギーなど)への選択肢
従来の方法で取り切れない細菌を補助的に殺菌して治療後の安定性を高め、再発リスクの軽減につなげます。
重度でも歯を残せる可能性が高まっています
かつて重度の歯周病では「抜歯しかない」と判断されることも少なくありませんでした。しかし現在では以下の治療を組み合わせることで、歯を残せるケースが増えています。
- 外科治療
- 再生療法
- ブルーラジカル
- メンテナンス体制
もちろん、すべての歯が救えるわけではありません。しかし治療技術が向上したことで、以前なら抜歯だった症例でも改善が期待できるようになっています。
中等度〜重度の歯周病でも、正しい治療を行えば安定状態を取り戻すことができるようになりました。
第4章 歯周病が治りにくいケース──再発の原因と改善のポイント
歯周病は適切な治療で改善できますが、すべての方が順調に回復するわけではありません。
「治療したのに再び腫れてきた」「メンテナンスに通っているのに炎症が残る」というケースもあります。
本章では、歯周病が治りにくくなる原因と、その改善のためにできる対策を整理します。原因を正しく理解し、ひとつずつ整えていくことで改善していきます。
なぜ治りにくいのか 背景にある5つの要因
歯周病の治りにくさには、いくつかの典型的なパターンがあります。
1. 喫煙による血流低下
タバコは歯ぐきの血流を低下させ、治癒を遅らせます。
- 炎症の回復が遅い
- 歯周ポケットの改善が乏しい
- 再発しやすい
喫煙者は非喫煙者に比べ、治療効果が大幅に下がることが知られています。
2. 糖尿病・免疫低下など全身的な要因
糖尿病は歯周病を重症化させやすい原因で、血糖値が高いほど炎症が治りにくくなります。
- 高血糖になり、歯ぐきの抵抗力が低下する
- 傷の治りが遅い
- 高血糖下の環境は、細菌の増殖を促進する
糖尿病は適切な治療と自己管理を行う、血糖値のコントロールは欠かせません。内科との連携が改善の鍵になります。
3. 清掃しにくい歯並び
歯が重なっている、傾いている部分は磨き残しが多く、細菌が常に残りやすくなります。先端に小さな毛束がひとつだけ付いた歯ブラシ(ワンタフトブラシ)などを使い、丁寧に歯垢を取り除く習慣を付けましょう。
4. 深い歯周ポケットが残っている
初期治療だけでは取り切れない細菌が奥に残り、慢性的な炎症が続いてしまいます。外科処置や再生療法を組み合わせることで大きく改善する可能性があります。
5. メンテナンスの間隔が空いてしまう
歯周病菌は一度減っても数ヶ月で元の状態に戻りやすいため、3〜4ヶ月ごとのメンテナンスが不可欠です。
治りにくいケースでも改善を目指せます
改善のためには、「原因を取り除く」「炎症を抑える」「再発させない」ことを段階的に行います。
1人で悩まず、歯科衛生士や歯医師のサポートを得ながら改善していきましょう。
セルフケアの見直し
- 歯ブラシの角度や当て方を歯科衛生士と確認する
- フロス・歯間ブラシの使い分け
- 電動歯ブラシの導入も検討する
生活習慣の改善
- 禁煙または本数を減らす
- 糖尿病のコントロール
- 睡眠・ストレス管理
口腔内だけでなく、全身状態を整えることも歯周病の治癒を促します。
足りない部分を補う治療
治りにくい部分には、以下のような追加治療が検討されます。
- フラップ手術(深いポケットへのアプローチ)
- 再生療法(骨の回復を促す)
- 噛み合わせの調整
- 動揺が強い歯の固定(スプリント)
歯周病が治りにくい原因を整理し、必要な治療と習慣改善を組み合わせることで、進行した状態でも改善を目指すことは十分可能です。
第5章 歯周病を“治す”ための生活習慣
歯周病の治療効果を長く保つためには、毎日の生活習慣が欠かせません。歯科医院での治療だけでは細菌をゼロにはできないため、自宅でのケアや食事、睡眠、メンテナンスが症状を左右します。
特に、磨き残しを減らす習慣づくりや、細菌が増えにくい生活リズムを整えることで、治療後の炎症を抑えやすくなります。
自宅で行うセルフケア
毎日の磨き方が歯周病の改善に直結します。歯ブラシだけでは60%の汚れしか落とせないため、補助清掃具の併用が欠かせません。
- 歯ブラシは歯ぐきのキワに45度で当てる(炎症の原因に直接届く)
- デンタルフロスを使う(歯と歯の間の細菌を除去)
- 歯間ブラシを併用する(隙間が広い部分の清掃に最適)
- 電動歯ブラシを活用する(磨き残しを減らせる)
食生活の改善で細菌を増やさない習慣を
つい歯磨きを忘れて寝たり、お菓子をたくさん食べる習慣はありませんか。日々の食生活は歯周病の進行と密接に関わります。
- 間食回数を減らす(細菌が活動し続ける時間を短縮)
- 砂糖の多い飲料を控える(ショ糖は細菌のエサになりやすい)
- よく噛む習慣をつける(唾液が増えて自浄作用が働く)
- 抗酸化作用のある野菜や果物を意識して摂る(炎症の抑制に役立つ)
全身の健康管理
体調が乱れると歯ぐきの炎症も治りにくくなります。特に糖尿病や免疫低下は歯周病を重症化させる要因です。
- 血糖値をコントロールする(炎症の治りやすさが変わる)
- 睡眠不足を避ける(免疫力が低下しやすい)
- 適度な運動を取り入れる(回復力が向上する)
- ストレスを溜めない(唾液量の低下を防ぐ)
ぜひ禁煙にチャレンジを
百害あって一利なしと揶揄されがちな喫煙ですが、あながち誤りではありません。
喫煙は歯周病が治らない最大の要因といわれています。できるだけ早く禁煙にチャレンジしましょう。
- 禁煙補助薬を検討する(無理なく続けやすい)
- 禁煙外来を活用する(専門家のサポートを受けられる)
症状が安定しても定期検診を続ける
治療後にメンテナンスを中断すると、数ヶ月で細菌が元の量に戻るといわれています。定期検診は症状の安定に欠かせません。
- 3〜4ヶ月に一度の通院を続ける(再発を早期に発見)
- ポケットや炎症を定期的に確認する(悪化を防ぐ)
- 必要に応じてクリーニングを行う(細菌を減らしやすい)
歯周病は細菌の感染症でありながら、生活習慣病の側面もあります。毎日のケア、生活習慣の改善、定期検診と治療の3つが揃うことで、ようやく症状の安定につながります。
まとめ 歯周病は“治る”可能性がある──正しい理解と継続がカギ
歯周病は「一度かかったら治らない」と思われがちですが、実際には早期に治療を受けることで、炎症が治まり、健康な状態に近づけることは十分に可能です。
特に軽度〜中等度の段階であれば、スケーリングやルートプレーニングなどの基本治療により、腫れや出血、口臭といった症状が大きく改善します。中等度〜重度に進行した場合でも、外科処置や再生療法を組み合わせることで“治る状態”に近づけることができ、以前に比べて歯を残せる可能性が高まっています。
ただし、どれほど治療を行っても、歯周病は生活習慣やセルフケアの影響を強く受ける病気です。治療後に適切なケアを続けなければ、炎症は再び起きやすくなります。毎日の歯磨きやフロス、食生活の見直し、禁煙、そして3〜4ヶ月に一度の通院を続けましょう。
正しい知識と継続的なケアを重ねることで、歯周病は改善できる病気です。治療と生活の両面から整えることで、健康な口腔環境を取り戻し、再発を防ぎながら長く快適に過ごすことができます。
作成日 2025年11月27日
参考文献
日本歯周病学会 歯周治療のガイドライン2022
https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_2022.pdf
日本歯周病学会 歯周基本治療-進め方とポイント P.7
https://www.perio.jp/file/news/info_220415.pdf
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