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磁石で安定させる入れ歯とは?仕組み・メリット・費用の目安を解説

2025.12.28

はすぬま⻭科

磁石で安定させる入れ歯とは?仕組み・メリット・費用の目安を解説

入れ歯が外れやすい、噛むとズレる、見た目が気になるなどのトラブルを抱く方は少なくありません。こうした悩みの改善策で近年注目されているのが磁石を利用した入れ歯です。歯科医療の分野では「磁性アタッチメント義歯」と呼ばれ、磁力を利用して入れ歯を安定させる治療法です。

磁石式入れ歯の特徴は、残っている歯の根やインプラントなどを支えにし、入れ歯と口の中をやさしく吸着させる点です。金属のバネを使わない構造が多く、見た目の配慮や着脱のしやすさを重視する方に検討されることがあります。一方で、誰にでも適応できる治療ではなく、土台となる歯や口腔内の状態によって向き不向きが分かれる方法です。

本記事では磁石式入れ歯の仕組みや特徴、他の入れ歯との違い、費用の考え方などを解説します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断・治療は歯科医師にご相談ください。

監修した先生

奈良 倫之先生

奈良 倫之 先生

医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長

第1章 磁石式入れ歯の仕組み

磁石式入れ歯は医療用磁石の磁力を利用して、入れ歯を口の中で安定させる治療法です。歯科医療では「磁性アタッチメント」を用いた義歯として知られています。
単に磁石を埋め込むのではなく、精密に設計された部品同士を組み合わせて結合させます。

磁石式入れ歯の基本構造

基本的な構造は磁石と「キーパー」と呼ばれる金属部品を磁力で保定します。キーパーは残っている歯の根やインプラントの上に固定され、入れ歯側には磁石を組み込みます。入れ歯を装着すると磁石とキーパーが引き合い、所定の位置へ収まる仕組みです。この吸着力で入れ歯がずれにくくなります。

磁石式入れ歯の特徴は、強い力でがっちり固定するのではなく、必要な分だけ安定性を補う点です。噛んだときに過剰な力が一点に集中しにくく、支えとなる歯や顎への負担を抑えることが期待されます。過剰な力を分散させることは、長期的に口腔内を健康に保つ上で欠かせない要素です。

磁性アタッチメントに使われる磁石は、日常生活で使われる一般的な磁石とは異なります。口の中という特殊な環境でも安定して機能するために防錆処理や封止構造が施された、生体への影響に配慮した医療用素材が用いられています。

磁石式入れ歯が作りにくいケースも

一見すると良いことばかりに見えますが、磁石式入れ歯は誰にでも適応できる治療ではありません。特に、残存歯の状態は治療の成否に大きく関わります。歯の根が十分に残っていないケースや重度の歯周病があるケースでは、磁性アタッチメントを固定すること自体が難しいことがあります。また、インプラントを土台にする場合には、外科手術を含めた治療計画が必要です。

磁石式入れ歯は残っている歯や顎の状態を活かしながら、安定性と負担軽減のバランスを取る治療法です。

第2章 磁石式入れ歯のメリットと注意点

磁石式入れ歯は入れ歯が外れやすい、安定しにくいといった悩みを抱える方にとって、有力な選択肢となる可能性があります。磁性アタッチメントで入れ歯の位置が自然に定まり、装着時のズレや浮き上がりが起こりにくくなるため、日常生活の安心感につながります。特に会話や食事の際に入れ歯の動きを気にせずに済むことは、心理的な負担の軽減にも寄与します。

磁石式入れ歯は金属のバネを使わない構造が多いため、口元の見た目を重視する方にも検討される方法です。笑ったときや話したときに金属が見えにくく、自然な印象を保ちやすい点は、仕事や人前で話す機会が多い方にとって重要な要素です。着脱も比較的簡単で、力を入れずに装着できることから、高齢の方や手指の力が弱くなってきた方にも配慮された設計といえます。

一方で、磁石式入れ歯には注意すべき点もあります。すべての方に適応できる治療ではないということは念頭に置きましょう。磁性アタッチメントを固定するためには、一定の状態を保った歯の根やインプラントが必要です。歯周病が進行している場合や、支えとなる歯が極端に弱っている場合には無理に作らず、他の治療法を検討したほうがより安全なケースもあります。

また、磁石の吸着力は永久的に変わらないわけではありません。長期間使用すると吸着力の低下や部品の摩耗が起こることがあります。そのため定期的な歯科でのチェックとメンテナンスが欠かせません。磁石式だけに限らず、入れ歯を長く快適に使うためには定期的に歯科医院で検診を受けましょう。

磁石式入れ歯の主なメリットと注意点は、次のようになります。

メリット

  • 入れ歯がずれにくく、安定しやすい
  • 金属のバネが見えにくく、見た目の配慮が容易
  • 着脱が比較的簡単で、扱いやすい

注意点

  • 残存歯やインプラントの状態によって適応が限られる
  • 定期的なメンテナンスが必要
  • 治療計画や費用は症例ごとに差が出やすい
  • 病院でMRIの撮影ができない可能性があります。必ず事前に検査技師にご相談下さい

磁石式入れ歯は利点が多いですが、口腔内の状態によっては作れないこともあります。次章では他の入れ歯と比較しながら、磁石式入れ歯がどのような位置づけにあるのかを整理します。

第3章 磁石式入れ歯と他の入れ歯の違い

入れ歯の作成を検討する際、「磁石式入れ歯は他の入れ歯と何が違うのか」と悩む方は多いでしょう。入れ歯には多くの種類があり、それぞれ固定方法や装着感、治療計画が異なります。磁石式入れ歯の特徴を理解するためには、代表的な入れ歯と比較しながら位置づけを整理することが有効です。

磁石式入れ歯は、残っている歯の根やインプラントを支えとして、磁性アタッチメントの吸着力で安定させる方法です。金属のバネに頼らず、入れ歯が自然に定位置へ収まる点が特徴とされています。一方、従来型の入れ歯では、床の適合性やクラスプ(留め具)の構造によって安定性を確保する考え方が基本になります。

以下の表は、磁石式入れ歯と他の入れ歯の違いを、4つの視点で整理したものです。

入れ歯の種類と特徴

入れ歯の種類 固定・支え方の特徴 見た目・装着感の傾向 治療計画上の注意点
磁石式入れ歯 磁性アタッチメントによる吸着 金属バネが見えにくく、着脱しやすい 残存歯やインプラントが必要
金属床義歯 床と歯ぐきの密着+クラスプ 薄く作りやすく安定感が出やすい 設計精度が装着感を左右する
ノンメタルクラスプデンチャー 樹脂製クラスプで保持 審美性に配慮できる 強度・耐久性を考慮する必要あり
金属+ノンメタルクラスプ複合型 金属床+樹脂クラスプ 機能性と見た目の両立 症例に応じた設計が重要
インプラント 顎骨に固定 天然歯に近い感覚 外科処置と全身状態の確認が必要

磁石式入れ歯は「入れ歯を強く固定する治療」というよりも、残っている歯やインプラントを活かしながら、磁力で安定性を補う治療法と位置づけられます。見た目や扱いやすさに優れる反面、土台となる歯がなければ作れないという制約もあります。

一方、金属床義歯やノンメタルクラスプデンチャーは、対応できる症例の幅が比較的広く、口腔内がどのような状態でも治療計画が立てやすいことが特徴です。人工歯根を顎の骨に埋め込むインプラントは高い安定性が期待できますが、外科処置や費用面を含めた慎重な判断が求められます。

このように、磁石式入れ歯は他の入れ歯と単純に優劣を比較するものではなく、口腔内の状態や生活背景に応じて選ばれる選択肢の一つです。次章では、費用の目安について、治療内容との関係を整理していきます。

第4章 磁石式入れ歯の費用目安

磁石式入れ歯を検討する際、多くの方が気になるのが費用面でしょう。磁性アタッチメントを用いた入れ歯は使用する材料や治療工程が一般的な保険の入れ歯とは異なるため、原則として自費診療になります。そのため、治療内容や設計によって費用に幅が生じやすい点は理解しておきましょう。

磁石式入れ歯の費用は、「入れ歯本体の種類」「磁性アタッチメントの数」「土台となる歯やインプラントの有無」など、複数の要素によって決まります。例えば、金属床義歯をベースに磁石を組み込む場合と、樹脂製(ノンメタルクラスプデンチャー)の入れ歯に磁性アタッチメントを用いる場合とでは設計や技工工程が異なり、費用にも差が出ます。

磁石式入れ歯は長期間の使用を前提とした治療です。入れ歯の作製費だけでなく、将来的な調整やメンテナンス代も含めて考える必要があります。初期費用だけで判断せず、治療後の管理体制や通院のしやすさも含めて検討することが、後悔の少ない選択につながります。

磁石式入れ歯を検討する際に比較されやすい治療の価格目安を整理しました。

磁石式入れ歯の費用目安

治療・入れ歯の種類 価格の目安 備考
金属床義歯 約50万〜100万円 強度と安定性を重視した設計・耐久性が高い
ノンメタルクラスプデンチャー 約10万〜30万円 金属ばねがなく、見た目に配慮した部分入れ歯・耐久性は低い
金属+ノンメタルクラスプ複合型 約50万〜100万円 機能性と審美性の両立
義歯修理 約1万〜10万円 破損・調整内容により変動
インプラント(1歯あたり) 約50万円〜 磁石式入れ歯の土台になる場合あり

※上記は一般的な目安です。実際の費用は症例や使用する材料、地域、歯科医院の方針により異なります。
磁石式入れ歯は費用だけを見ると高額に感じられることもありますが、「どのような安定性を求めるのか」「残っている歯をどう活かしたいのか」といった治療目的によって、価値の感じ方は変わります。次章では磁石式入れ歯が向いている人、慎重に検討すべき人について整理していきます。

第5章 磁石式入れ歯が向いている人・慎重に検討すべき人

磁石式入れ歯は「入れ歯がずれる」「話していると外れそうで不安」と感じている方にとって、満足度を高める可能性のある治療法です。ただし、すべての人に向いているわけではなく、口の状態や生活スタイルによって合う・合わないが分かれます。

磁石式入れ歯は、残っている歯やインプラントを支えにして、磁石の力で入れ歯を安定させる仕組みです。今使っている入れ歯がズレやすいと感じている方や、金属のバネが見える外見に抵抗がある方は検討の余地があるでしょう。装着や取り外しが比較的簡単な点も、日常生活での扱いやすさにつながります。

一方、磁石を使った入れ歯は支えとなる歯の状態がとても大切です。重度の歯周病などで歯ぐきの状態が悪かったり、歯が大きく揺れる場合は、安定が得られないこともあります。また、磁石式入れ歯は作って終わりではなく、定期的なチェックや調整を続けることが前提となります。そのため、定期的な通院が難しい方は慎重に考える必要があります。

磁石を使った入れ歯が向いている可能性のある人は、次のとおりです。

  • 入れ歯がずれたり、外れたりすることに不安がある
  • 口元の見た目をできるだけ自然にしたい
  • 入れ歯の着脱を楽に行いたい
  • 残っている歯を活かした治療を考えている

反対に、次のような場合は注意が必要です。

  • 支えとなる歯や歯ぐきの状態が不安定
  • 定期的に歯科医院へ通うことが難しい
  • できるだけ費用を抑えた治療を希望している

磁石を使った入れ歯は、条件さえ合えば快適さを高める選択肢になりますが、無理に選ぶ必要はありません。自分に合った入れ歯を見つけるためにも、歯科医師と相談しながら、いくつかの治療方法を比べて検討しましょう。

まとめ

磁石式入れ歯は、磁性アタッチメントの力を利用して入れ歯の安定性を高める治療法です。「外れやすい」「ずれが気になる」といった入れ歯特有の悩みを軽減できる可能性があります。金属のバネを使わない構造が多く、見た目への配慮や着脱のしやすさを重視する方にとっては、検討価値のある選択肢といえるでしょう。

一方で、磁石式入れ歯はすべての方に適応できる治療ではありません。支えとなる歯やインプラントの状態が治療の成否に大きく関わり、口腔内の条件によっては他の入れ歯のほうが適している場合もあります。また、自費診療が中心となるため、費用やメンテナンス体制を含めた長期的な視点での判断が欠かせません。

入れ歯選びで重要なのは自分の口の状態や生活背景に合った方法を見極めることです。磁石式入れ歯は数ある選択肢の一つであり、歯科医師による診断と十分な説明を受けたうえで比較検討することが、納得のいく治療につながります。

 

作成日 2025年12月20日

参考文献

日本補綴歯科学会 磁性アタッチメントの基礎と臨床
 https://www.hotetsu.com/files/files_778.pdf

日本歯科医学会 磁性アタッチメントを支台装置とする有床義歯の診療に対する基本的な考え方
 https://www.jads.jp/assets/pdf/basic/r04/document-221201.pdf

担当した診療所

ファミリー歯科

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