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その違和感、年齢のせい?口腔機能低下症のチェック方法をわかりやすく解説

2025.12.28

はすぬま⻭科

その違和感、年齢のせい?口腔機能低下症のチェック方法をわかりやすく解説

「最近、食べ物が噛みにくくなった」
「水やお茶でむせることが増えた」
「以前より滑舌が悪い気がする」
こうした変化は、多くの人が年齢のせいだと受け止めがちです。しかし、これらの症状の中には口腔機能低下症が隠れていることがあります。

口腔機能低下症は、噛む・飲み込む・話す・口を清潔に保つなどの口の機能が、加齢や生活習慣、口腔環境の変化によって低下した症状のことです。進行はゆっくりで痛みを伴わないことが多いため、本人が気づかないまま放置されやすいのが特徴です。しかし、口の機能低下は食事量の減少や栄養不足につながり、全身の健康状態や生活の質(QOL)に影響を及ぼす可能性があります。

近年は、「気づいた時点でチェックする」ことの重要性が強調されています。口腔機能低下症は早期に発見し適切に対応すれば、進行を抑え改善を目指すことが可能です。本記事では、口腔機能低下症の基礎知識からチェックの考え方、受診の目安までを解説します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断・治療は歯科医師にご相談ください。

監修した先生

奈良 倫之先生

奈良 倫之 先生

医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長

第1章 口腔機能低下症とは何か─「年齢のせい」で片づけないために

口腔機能低下症は、噛む・飲み込む・話す・唾液を分泌する・口腔内を清潔に保つなど口の機能が低下した疾患です。これは単なる老化現象ではありません。日本歯科医学会などが基準を示している診断名のある病気です。
口腔機能低下症の特徴は急激に悪化せず、少しずつ症状が進行するところです。そのため「最近ちょっと食べづらい」「話しにくい気がする」といった軽い違和感の段階では、見過ごされやすい傾向があります。

高齢者だけの病気ではない

口腔機能低下症は高齢者に多い傾向はありますが、高齢者だけが発症するわけではありません。歯の本数の減少、合わない入れ歯、口腔内の乾燥、柔らかい食事、偏った食生活などが重なることで、40〜60代でも口の機能が徐々に低下することもあります。
 特に近年は、痛みや腫れがなくても機能が落ちていくケースが増えており、「症状がない=問題がない」とは言い切れません。だからこそ、症状が軽いうちにチェックすることが重要です。

症状を放置すると、全身の健康に影響することも

口腔機能の低下は食事の量が減り、食べるものの偏りを招きます。放置すると低栄養や栄養の偏り、体力低下につながる可能性があります。さらに、飲み込みにくさが進行すると誤嚥のリスクが高まり、生活の質(QOL)にも影響を及ぼします。
 口腔機能低下症は、早期に気づき適切に対応することが重要とされています。早期発見のためにも「口の機能を客観的にチェックする」ことが大切です。

参照:日本歯科医学会 口腔機能低下症に関する基本的な考え方
 https://www.jads.jp/assets/pdf/basic/r06/document-240329.pdf

第2章 まずはセルフチェック─口腔機能低下症を疑うサイン

口腔機能低下症は、進行がゆるやかで痛みもなく、本人が異変に気づきにくいのが特徴です。そのため、日常生活の小さな変化に意識を向け、ささいな変化に気づけることが大事です。ぜひ定期的にセルフチェックをしましょう。
これから紹介するセルフチェックは、あくまで受診の目安を知るためのもので、診断を行うものではありません。しかし複数当てはまるなら歯科医院で受診を検討すべきでしょう。

特に注目したいのは「食事」「会話」「口腔内の清潔さ」の悪化です。たとえば口臭が強くなる、口の中がベタつく、食事が食べにくいなどが該当します。これらの症状は口腔機能の低下が関係していることがあり、日常生活の質も悪化させます。本人だけでなく、家族が気づきやすいポイントも含めて確認してみましょう。

口腔機能低下症セルフチェックの目安

チェック項目 具体的な状態の例 よくある勘違い
食べる機能 硬いものが噛みにくい/食事に時間がかかる 噛み合わせの悪化、歯ぐきの腫れと考えてしまう
飲み込む機能 水分や汁物でむせることがある 体調や年齢のせいと考えがち
話す機能 滑舌が悪くなったと感じる 本人より周囲が先に気づく
口腔の乾燥 口が乾きやすい/ネバつく 加齢や更年期障害、薬の影響と区別しにくい
口腔清掃 食べこぼしが増えた 注意力散漫と誤解されやすい
舌や唇の動き 舌が動かしにくい/唇が閉じにくい 意識しないと自覚しにくい
食生活の変化 柔らかい物を選ぶことが増えた 好みの変化と思われやすい

これらの項目のうち、複数に心当たりがある場合は、口腔機能が低下し始めている可能性があります。特に「噛みにくさ」「むせる」「滑舌が悪くなる」が同時に見られる場合は、注意が必要です。

大事なのは「まだ大丈夫」と放置せず、早めに歯科を受診することです。ご家族や周囲の人にこれらの症状があれば、歯科の受診を促しましょう。
口腔機能低下症は早い段階で気づき、歯科で評価を受けることができれば、進行を抑えられる可能性があります。セルフチェックを受診につなげるための第一歩として活用しましょう。

第3章 口腔機能低下症の診断基準

セルフチェックで気になる点があった場合、歯科医院での専門的な評価が必要です。口腔機能低下症は、歯科医師が一定の基準に基づいて診断して治療する病気であり、自己判断だけで確定することはできません。
現在、日本歯科医学会などが示す考え方では、複数の口腔機能を客観的に評価し、総合的に判断することが重視されています。

出典:日本歯科医学会 口腔機能低下症に関する基本的な考え方
https://www.jads.jp/assets/pdf/basic/r06/document-240329.pdf

診断では、噛む力や舌・唇の動き、飲み込みの状態、口腔内の清潔さなど、口の機能を多角的に確認します。これにより、「どの機能が、どの程度低下しているのか」を具体的に把握することができます。

歯科医院で行われる主な診断項目

評価項目 診断内容 分かること
口腔清潔度 舌や歯の汚れの付着状況 口腔内が清潔に保てているか
口腔乾燥 唾液量や口腔内の乾燥状態 潤いを保つ機能
噛む機能 咀嚼能力や食物の噛み切り 咀嚼効率の低下
舌・唇の運動 発音や運動速度の評価 運動機能の低下
飲み込み 嚥下のスムーズさ 誤嚥リスクの把握
咀嚼・嚥下の総合 複数項目の結果を統合 口腔機能全体の状態

これらの検査は、複数項目を組み合わせて評価することが特徴です。一定数以上の項目で基準を満たさない場合に、口腔機能低下症と判断されます。口腔機能低下症は一定の基準を満たした場合、歯科保険診療の対象として評価・管理が行われることがあります。

歯科でのチェックを受けるメリットは、「年齢のせい」と思っていた不調を、医学的な視点で整理できる点です。低下している機能が明らかになれば、必要な治療やケアに繋げることができます。

第4章 口腔機能低下症の改善・予防

歯科医院でのチェックにより口腔機能の低下が指摘された場合でも、過度に不安になる必要はありません。口腔機能低下症は早い段階で適切な対応を行えば、進行を抑えたり、状態の改善を目指したりできると考えられています。重要なのは、「自己流で何とかしよう」とせず、医療と日常ケアを正しく組み合わせることです。

口腔治療とケア

まず基本となるのが、口腔内環境を整えることです。むし歯や歯周病、合わない入れ歯がある状態では、どれだけケアを行っても十分な効果は期待できません。歯科治療や義歯の調整を優先し、その上で機能改善に取り組むことが重要です。土台が不安定なまま運動だけを行っても、期待した改善につながりにくいためです。

また、口腔機能低下症への対応は、短期間で結果を求めるものではありません。加齢や生活習慣と深く関わるため、無理なく継続できる方法を選ぶことが長期的な機能維持につながります。

改善・予防のために重視されるポイント

口腔ケアの見直し

歯・歯ぐき・舌を清潔に保つことは、口腔機能の土台になります。

  • 歯磨きだけでなく舌の清掃も行う
  • 乾燥がある場合は保湿ケアを取り入れる
  • 定期的な歯科でのクリーニングを活用する

口腔内が不衛生な状態では、細菌の増加により炎症が起こりやすくなり、噛む・飲み込むといった動作に悪影響を及ぼします。毎日のセルフケアと歯科での専門的ケアを併用することが、機能低下の予防につながります。

正しい噛み方の習慣化

併せて、日常動作の中の改善を心がけます。慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、意識することで徐々に改善が期待できます。

  • 左右バランスよく噛むことを意識する
  • 早食いを避け、食事時間を確保する
  • 食形態は極端に柔らかくしすぎない

「噛みにくいから」と柔らかい食事ばかりを選んでいると、噛む力や舌の動きがさらに低下することがあります。安全性に配慮しながら、現在の口腔機能に合う食事内容を選びましょう。

専門的な指導を受ける

口腔機能の状態は人によって異なります。

  • 歯科医師や歯科衛生士の指導を受ける
  • 必要に応じて口腔機能訓練を取り入れる
  • 自己判断での過剰な運動は避ける

インターネットや書籍で紹介されている体操やトレーニングが、すべての人に適しているとは限りません。状態に合わない方法を続けると、かえって負担になることもあります。専門家の指導のもと、無理のない範囲で取り組みましょう。

口腔機能低下症への対応は、「できることを、できる範囲で続ける」ことが基本です。日常生活の中で少しずつ意識を変えていくことが、将来の食事や会話のしやすさを守ることにつながります。

第5章 受診の目安と注意点─放置しないために知っておきたいこと

セルフチェックで複数の項目に当てはまる場合や、「噛みにくい」「むせやすい」といった変化が続いている場合は、歯科医院での相談を検討しましょう。特に、食事量が減ってきた、食べるのが億劫になるなどの変化は、口腔機能低下が生活に影響を及ぼし始めているサインと考えられます。
また、入れ歯を使用している方で「外れやすい」「痛みはないが使いにくい」と感じている場合も、歯科受診の目安になります。痛みがなくても機能が低下しているケースは少なくありません。

放置することで起こる可能性がある症状

口腔機能の低下を放置すると、噛む・飲み込む動作がさらに難しくなり、食事内容が偏ることで低栄養につながる可能性があります。低栄養は体力低下や筋力の減少を招き、日常生活の活動量が落ちる要因にもなります。
飲み込みにくさが悪化すると誤嚥のリスクが高まり、誤嚥性肺炎など生命に関わる疾患を起こすおそれがあります。口腔機能低下症は口の問題にとどまらず、全身の健康に関わります。

口腔機能低下症を放置した場合に考えられる影響

影響の領域 起こりやすい変化 注意点
食事・栄養 食事量の減少、栄養の偏り 低栄養に気づきにくい
体力・筋力 疲れやすくなる、活動量の低下 加齢のせいと誤解されやすい
嚥下機能 むせ・飲み込みづらさの増加 誤嚥リスクが高まる
生活の質 食事や会話が負担になる 外出や交流が減りやすい
全身の健康 フレイルへの移行リスク 早期介入が重要

自己判断に頼りすぎないことが大切

「まだ食べられているから大丈夫」「年齢を考えれば仕方がない」といった自己判断は、受診のタイミングを遅らせる原因になります。口腔機能低下症は、歯科で早期に診断を受けることで、状態に合った治療や対策を選びやすくなります。
また、インターネットやテレビで紹介される対策法を自己流で続けることが、必ずしも適切とは限りません。歯科医師や歯科衛生士による客観的な評価を受け、必要に応じた指導を受けることが、結果的に安心につながります。

まとめ 口腔機能低下症は「チェックから始める予防の病気」

口腔機能低下症は、噛む・飲み込む・話すといった口の働きが、気づかないうちに低下していく状態です。進行がゆるやかで痛みを伴わないことが多いため、「年齢のせい」と見過ごされやすい点が特徴ですが、放置すると食事量の減少や低栄養、生活の質の低下につながる可能性があります。

そのため小さな変化に目を向け、早期発見することが大切です。セルフチェックは診断ではありませんが、受診のきっかけになります。歯科医院では、口腔機能を客観的に評価し、状態に応じた治療やケアの提案を受けることができます。

口腔機能低下症は、早期に気づき、適切な対応を行えば、進行を抑えたり改善を目指したりできる状態です。「まだ大丈夫」と自己判断せず、気になるサインがあれば歯科に相談することが、将来の生活を守る第一歩になります。

 

作成日 2025年12月20日

参考文献

日本歯科医学会 口腔機能低下症に関する基本的な考え方
 https://www.jads.jp/assets/pdf/basic/r06/document-240329.pdf

日本歯科医師会 オーラルフレイル対応マニュアル2020年度版
 https://www.jda.or.jp/oral_frail/2020/pdf/2020-manual-all.pdf

厚生労働省 口腔機能の健康への影響
 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-08-001

担当した診療所

ファミリー歯科

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