子供のおしゃぶりが歯並びに影響するのは本当？保護者が知っておきたい基礎知識

赤ちゃんや小さな子供の育児で「おしゃぶりを使っても大丈夫？」「歯並びに悪影響はないの？」と不安に感じたことがあるでしょうか。
おしゃぶりは、泣き止ませや寝かしつけの助けになる一方で、「将来、歯並びが悪くなるのでは」という心配がつきまといがちです。インターネットやSNSでは、「おしゃぶり＝歯並びが悪くなる」といった断定的な情報を目にすることもありますが、実際の影響は使い方や時期によって異なります。

子どもの歯や顎は、成長とともに大きく変化していきます。一時的に歯並びに変化が見られても、自然に改善するケースもあります。一方で、使用期間や習慣によっては注意が必要な場合があるのも事実です。大切なのは、「使ってはいけない」と極端に考えるのではなく、正しい知識をもとに判断することです。

この記事では、おしゃぶりが歯並びに影響すると言われる理由や、子どもの月齢、年齢別の考え方、歯科医の見解を整理して解説します。

 

第1章　おしゃぶりが子供の歯並びに影響する？

おしゃぶりが歯並びに影響するかどうかは、多くの保護者が気になるテーマです。「使うと歯並びが悪くなる」と一括りにされがちですが、実際には子どもの成長段階やおしゃぶりの使い方によって影響の出方は異なります。この章では、なぜおしゃぶりが歯並びと結び付けて語られるのかを整理していきます。

子供の乳歯と顎は成長途中

子どもの口の中は、大人と違い常に成長と変化の途中にあります。乳歯は生えそろってからも顎の成長に合わせて位置が変わり、将来生えてくる永久歯のためのスペースを作っていきます。この時期は外からの力の影響を受けやすく、おしゃぶりのように口の中に一定の力がかかる習慣があると、歯の並び方や噛み合わせに変化が生じることがあります。ただし、成長途中なので使用をやめれば自然に戻るケースも少なくありません。

おしゃぶりの形状と吸う力の影響

おしゃぶりは人工物であり、形や硬さが一定です。吸う力が前歯や上顎に持続的にかかることで、前歯が噛み合わずに隙間ができる「開咬」などの状態につながる可能性が指摘されています。特に、長時間くわえ続ける習慣があると、その影響が蓄積しやすくなります。一方で短時間の使用や歯並びに配慮した形状の製品では、影響が最小限にとどまることもあります。

一時的な変化と注意すべきケース

おしゃぶりによる歯並びの変化は、将来まで残るとは限りません。乳歯の時期に見られる軽い歯列の乱れはおしゃぶりを卒業し、顎が成長する過程で自然に改善することもあります。ただ、おしゃぶりを2～3歳を過ぎても使用が続く場合や、噛み合わせに明らかな異常が見られる場合は注意が必要です。これらの兆候が見られたら小児歯科で相談すると良いでしょう。

第2章　歯並びへの影響はいつから？月齢・年齢別の考え方

おしゃぶりと歯並びの関係を考えるうえで重要なのが、「いつ・どのくらいの期間使うか」です。子どもの歯や顎は月齢、年齢によって発達段階が異なり、おしゃぶりの影響の出やすさも一様ではありません。この章では、子どもの成長段階ごとの注意点を整理します。

乳児期は、「吸う」という行為そのものが発達に必要な時期です。そのため、早い時期のおしゃぶり使用が直ちに歯並びの問題につながるとは限りません。一方で、歯が生えそろい噛み合わせが形づくられていく時期になると、使い方次第では出っ歯になるなど影響が表れやすくなります。

月齢・年齢ごとの発達と歯並び

年齢・月齢の目安	口の中の発達状況	おしゃぶりと歯並びの考え方
0〜6か月頃	歯はまだ生えていない、吸啜反射（吸う）が強い	歯並びへの直接的な影響はほぼない
6か月〜1歳頃	前歯が生え始める	長時間の使用は控え、様子を観察
1〜2歳頃	乳歯が増え、噛む動きが発達	使用時間・頻度に注意が必要
2〜3歳頃	乳歯列が整い始める	歯並びへの影響が残りやすくなる時期
3歳以降	噛み合わせが安定してくる	卒業しておきたい時期

「何歳までなら絶対に大丈夫」と一線を引くことは難しいですが、2歳前後からは意識して使用を見直す時期に入ると考えられます。特に、日中も常におしゃぶりをくわえている、眠っている間ずっと使用しているといったケースでは、前歯や顎にかかる力が続きやすくなります。

大切なのは年齢だけで判断するのではなく、使用時間や子どもの成長の様子を合わせて見ることです。歯並びや噛み合わせに気になる変化が出てきた場合は、「まだ小さいから」と自己判断せず、小児歯科で相談することも選択肢の一つです。

第3章　歯科医の立場から見た「おしゃぶりの適切な使い方」

おしゃぶりは「使わないほうがいいのか？」「早くやめさせるべきか？」と極端な意見が出やすいテーマです。しかし、歯科医の立場では一律に否定するものではなく、子どもの発達や家庭の状況を踏まえて考えることが重視されています。歯並びへの影響を最小限に抑えながら、おしゃぶりのメリットを活かすためには、使い方の工夫が欠かせません。

使用時間と場面を限定する

歯科の考えでは「おしゃぶりを常にくわえさせない」ことが基本とされています。泣き止ませや寝かしつけなど、必要な場面に限定して使うことで、歯や顎にかかる力を減らすことができます。特に、日中の活動時間まで習慣的に使用している場合は、歯並びへの影響が出やすくなるため注意が必要です。

歯並びに配慮したおしゃぶりの選び方

現在市販されているおしゃぶりには、口腔発達を考慮した形状のものもあります。先端が平らで、上顎や前歯に過度な力が集中しにくい設計の製品は、歯並びへの負担を抑える工夫がされています。また、子どもの成長に合ったサイズを選ぶことも大切です。サイズが合っていないと、吸う力が強く前歯や顎にかかりやすくなります。

不安がある場合は小児歯科で相談を

おしゃぶりの使い方に迷ったときや、歯並び・噛み合わせに気になる変化が見られた場合は、小児歯科に相談するのが安心です。成長段階を踏まえたうえで、「今すぐやめるべきか」「段階的に減らすか」といった具体的なアドバイスを受けることができます。専門家の視点を取り入れることで、過度な不安を抱えずに対応しやすくなるでしょう。

第4章　おしゃぶりをやめるタイミングと無理のない卒業方法

おしゃぶりが歯並びに与える影響を考えたとき、多くの保護者が悩むのが「いつ、どのようにやめさせればよいのか」という点です。早くやめたほうがよいと分かっていても、急に取り上げてしまうと子どもが強い不安に襲われ、睡眠や生活リズムが乱れることがあります。歯並びへの配慮と子どもの心の安定、その両方を大切にしながら進めることが重要です。

一般的に、おしゃぶりの卒業を意識し始めたいのは、乳歯がほぼ生えそろい、噛み合わせが形づくられてくる2〜3歳頃とされています。この時期以降も長時間使用が続くと、前歯が噛み合わなくなり、歯列に偏りが出る可能性が高まるためです。ただし、年齢だけで一律に判断するのではなく、使用頻度や子どもの様子を見ながら進める姿勢が大切です。

無理なくおしゃぶりを卒業するために

無理なく卒業するためには、段階的なアプローチが効果的なことがあります。いきなりおしゃぶりを取り上げるのではなく、使う場面を少しずつ減らしていく方法です。最初は日中の使用を控え、次に寝かしつけのときだけに限定するなど、子どもにとって負担をかけにくい工夫を重ねていきます。こうした小さな変化の積み重ねで、結果的にスムーズな卒業につながります。

最低限押さえておきたいポイントとして、次のような点があります。

• 使用する場面を「寝る前のみ」などに限定する
• 子どもに分かる言葉で「少しずつ卒業する」ことを伝える
• 不安を和らげるための代替行動（絵本・抱っこなど）を用意する

また、うまくいかない日があっても、「失敗した」と考えないことが大切です。おしゃぶりに安心感を求める背景には、その子なりの不安や疲れがあります。無理に取り上げると指しゃぶりなど別の癖に置き換わってしまうケースもあるため、慎重に進める必要があります。

歯並びが気になる場合でも、家庭だけで抱え込む必要はありません。小児歯科では、おしゃぶりの使用状況や歯列の状態を踏まえたうえで、卒業のタイミングや進め方について具体的な助言を受けることができます。専門家の視点を取り入れると保護者の不安も軽減され、子どもにとっても無理のない形で次のステップへ進みやすくなるでしょう。

第5章　おしゃぶりと歯並びに関する、よくある誤解

おしゃぶりについて調べると、さまざまな情報が目に入り、「結局どう考えればいいの？」と迷ってしまうことがあります。歯並びへの影響を必要以上に不安視してしまうのは誤解や断片的な情報を鵜呑みにするケースも少なくありません。この章では、保護者が誤解しやすいポイントを整理し、落ち着いて判断するための視点をお伝えします。

誤解1　おしゃぶりを使うと必ず歯並びが悪くなる？

「おしゃぶり＝歯並びが悪くなる」というイメージは広く知られていますが、必ずしも正確ではありません。歯並びへの影響は、使用開始の時期、1日の使用時間、卒業する年齢などが大きく関係します。短時間の使用や、成長に合わせて適切にやめられた場合には、歯列への影響がほとんど残らないケースも多く見られます。大切なのは、使っているかどうかではなく、「どのように使っているか」です。

誤解2　 乳歯の歯並びが乱れると将来も治らない？

乳歯の時期に見られる歯並びの変化が、そのまま永久歯まで影響するとは限りません。子どもの顎は成長過程にあり、乳歯列の軽度な乱れが自然に整っていくこともあります。おしゃぶりをやめた後、顎の成長とともに噛み合わせが改善する例も少なくありません。そのため、早い段階で過度に心配しすぎる必要はないと考えられています。

誤解3　 指しゃぶりと同じように考えてよい？

おしゃぶりと指しゃぶりは、同じ「吸う行為」でも性質が異なります。おしゃぶりは人工物であり、使用する場面や時間を大人がコントロールしやすい点が特徴です。一方、指しゃぶりは無意識に続きやすく、心理的な要素が関与することもあります。両者を同じものとして判断してしまうと、必要以上に不安を強めてしまうことがあります。それぞれの特徴を理解したうえで、適切に対応することが重要です。

まとめ おしゃぶりと歯並びは「使い方」と「時期」が大切

おしゃぶりは赤ちゃんや幼児の不安を和らげ、育児を助けてくれる便利なアイテムです。一方で、「歯並びに悪影響があるのでは」と心配になるのも自然なことです。ただし、おしゃぶりを使ったからといって、必ず歯並びが悪くなるわけではありません。影響の有無は、使用する期間や時間、子どもの成長段階によって大きく左右されます。

特に注意したいのは、乳歯が生えそろい、噛み合わせが形づくられてくる2〜3歳以降です。この時期を過ぎても長時間使用が続くと、前歯の噛み合わせや歯列に影響が残る可能性が高まります。しかし必要な場面に限定して使い、段階的におしゃぶりを卒業できれば、歯並びへの影響が自然に改善するケースも少なくありません。

大切なのは、「早くやめさせなければ」と焦ることではなく、子どもの気持ちや生活リズムを尊重しながら進めることです。無理な卒業は、かえって指しゃぶりなど別の癖につながることもあります。不安がある場合は、小児歯科で相談し、専門家の視点を取り入れることも有効です。正しい知識をもとに判断することで、過度に心配しすぎず、安心して子育てと向き合えるでしょう。

 

作成日 2025年12月22日

参考文献

日本小児歯科学会　こどもたちの口と歯の質問箱「おしゃぶりはいつごろまで使っていてもいいのでしょう？」
 https://www.jspd.or.jp/question/2years_old/

日本小児歯科学会　小児の保健に関する小児科と小児歯科の検討委員会の設立についてP.8「おしゃぶりについての考え方」
 https://www.jspd.or.jp/common/pdf/06_03.pdf