オーラルフレイルとは?口の衰えに早く気づくためのサインと対策を解説します。
2026.01.19
はすぬま⻭科
食事のときに前より噛みにくくなった気がする、飲み物でむせることが増えた、会話の途中で言葉が出にくい―こうした口の変化に心当たりはありませんか。多くの方が、「年齢のせいだろう」と深く気に留めずに過ごしていますが、その背景にあるのが「オーラルフレイル」です。
オーラルフレイルは噛む・飲み込む・話すといった口の働きが、少しずつ弱くなっていく状態を指します。むし歯や歯周病、歯を失ったこと、入れ歯の違和感などが重なり、気づかないうちに口の機能が落ちていくケースも少なくありません。初期の段階では大きな不便を感じにくいため、「まだ大丈夫」と見過ごされがちです。
ただ、口の機能は食事や会話を通じて、体の健康や人とのつながりとも深く関わっています。口の衰えが続くと、食事量が減ったり、食べやすいものに偏ったりすることもあります。オーラルフレイルのある方はそうでない方に比べて、筋量低下や認知機能低下、死亡リスクが2倍以上高いという統計もあります。
出典:厚生労働省 口腔機能の健康への影響
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-08-001
だからこそ、強い症状が出る前に、日常の小さな変化に気づくことが改善の第一歩です。オーラルフレイルは、早めに向き合うことで対策しやすく、改善しやすいのが特徴です。
目次
監修した先生
奈良 倫之 先生
医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長
第1章 オーラルフレイルとは
オーラルフレイルとは、口の機能が健康な状態から、少しずつ衰え始めている段階を指す言葉です。噛む力や飲み込む力、話すときの口の動きなどが徐々に低下し、「以前と比べると何となく不調を感じる」という状態が続いていることが特徴です。病気としてはっきり診断されるわけではありませんが、将来的な健康状態に影響しやすい変化として、近年注目されています。
この段階では、日常生活に大きな支障が出ることは多くありません。そのため、「年齢のせい」「疲れているだけ」と考え、特別な対応をしないまま過ごしてしまうケースも少なくありません。しかし、オーラルフレイルは他の老化現象に比べて、早い段階で気づきやすく、対策を取りやすいという利点があります。
加齢だけが原因ではありません
オーラルフレイルは、単に年齢を重ねたから起こるものではありません。高齢者でなくても、口腔内の状態が悪いと起こるおそれがあります。
むし歯や歯周病による噛みづらさ、歯を失ったまま放置している状態、合わなくなった入れ歯の使用など、口の環境の変化が重なって進行することが珍しくありません。
偏った生活習慣もオーラルフレイルを悪化させる原因です。やわらかい食事が中心になり、噛む回数が減る、パンや麺、お菓子など口当たりの良いものばかり食べると口の筋肉が使われにくくなると影響を受けやすくなります。
このように、生活習慣や口腔内の状態が影響する点が、オーラルフレイルの大きな特徴です。「高齢だから仕方がない」とあきらめず、口腔トラブルや日々の生活習慣を見直しましょう。
オーラルフレイルは「フレイル」の入り口
オーラルフレイルは、「フレイル」と呼ばれる心身の虚弱状態の中でも、口の機能に焦点を当てた考え方です。フレイルは、筋力や体力の低下、活動量の減少などを含む広い概念ですが、オーラルフレイルはその入り口になりやすいと考えられています。
口の機能が低下すると、食事が楽しめなくなり、栄養状態が偏りやすくなります。その結果、体力や筋力の低下につながることもあります。オーラルフレイルは見過ごされやすい一方で、全身の健康に関わる重要なサインといえるでしょう。
第2章 オーラルフレイルに見られる主な変化
オーラルフレイルは、ある日突然はっきりとした症状が出るものではありません。多くの場合、「少し気になる」「以前とは違う気がする」といった小さな変化から始まります。そのため、体調や年齢の影響と区別がつきにくく、見過ごされやすいのが特徴です。
特に現れやすいのは、噛む・飲み込む・話すといった日常動作に関わる変化です。食事の内容や食べ方、会話のしやすさなど、普段の生活の中にヒントが隠れています。次の表を参考に、オーラルフレイルの初期に見られやすい変化をセルフチェックしましょう。
オーラルフレイルのサインとして気づきやすい変化
| 項目 | 気づきやすい変化の例 |
|---|---|
| 噛む | 硬いものを避けるようになった/噛むのに時間がかかる |
| 飲み込む | 水やお茶でむせることが増えた |
| 話す | 発音が不明瞭に感じる/会話の途中で疲れやすい |
| 口の中 | 口の乾きが気になる/食べ物が残りやすい |
| 食事習慣 | やわらかい食事が増え、食事の幅が狭くなった/ 肉や魚、野菜を避け、炭水化物やお菓子を選びやすくなった |
これらはあくまで「気づきの目安」であり、当てはまるからといって病気を意味するものではありません。しかし放置すると徐々に悪化し、本格的なフレイルに進行するおそれがあります。
オーラルフレイルは早い段階で気づき対策すれば、生活習慣の見直しや口腔ケアで対応しやすいと考えられています。次の章では、こうした口の変化が続いた場合に、体全体にどのような影響が及ぶのかを見ていきます。
第3章 オーラルフレイルが体全体に及ぼす影響
オーラルフレイルは「口の問題」に見えますが、実は体全体の調子や生活の質にもつながりやすい点が特徴です。口の働きが落ちると、食事の内容や食べ方が変わり、栄養の取り方や体力の維持に影響が出ることがあります。また、話しづらさや口元への自信の低下がきっかけで、人との会話や外出を控えるようになり、活動量が減ってしまうこともあります。こうした変化は少しずつ進むため、本人は「年齢のせい」「最近あまり食べられないだけ」と受け止めがちです。
オーラルフレイルは食事と運動に現れやすい
特に影響が出やすいのは、食事と運動です。噛みにくさやむせやすさがあると、だんだん硬い肉や野菜、噛みごたえのある食品を避けるようになり、食べやすい麺類ややわらかい主食、お菓子に無意識に偏りやすくなります。すると、たんぱく質や食物繊維などが不足しやすく、体力や筋力の維持が難しくなる場合があります。逆にいえば、口の機能が整っていることは、しっかり食べて、体を保つための土台になります。
もう一つ見落とされやすいのが、社会的な影響です。話しにくさや発音の変化、口の乾き、口臭の不安などがあると、人前で話すことが億劫になり、会食や外出の機会が減ることがあります。活動量が落ちると、体を動かす機会も減り、気分の落ち込みにつながることもあります。オーラルフレイルは、こうした「食べる」「話す」「外に出る」といった日常の基本をじわじわと変えてしまうのが特徴です。
出典:厚生労働省 口腔機能の健康への影響
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-08-001
オーラルフレイルを放置すると起こる生活の悪化
オーラルフレイルが引き起こす影響は多岐にわたります。
- 食事の幅が狭くなり、栄養が偏りやすくなる
- 体力や筋力が落ち、疲れやすくなる
- 会話や外出を控えがちになり、活動量が減る
- 生活の楽しみ(食事・交流)が減りやすい
もちろん、これらがすぐに起こるわけではありません。ただ、口の小さな不調をきっかけに、食事と活動のバランスが徐々に崩れていくことはあります。だからこそ、「口のことは後回し」にせず、歯科を受診すれば安心です。次の章では、オーラルフレイルを防ぐために日常でできる工夫を具体的に紹介します。
第4章 オーラルフレイルを防ぐためにできること
オーラルフレイルを防ぐ方法はあるのでしょうか。個人差はありますが、対策をすれば進行を穏やかにすることはできます。対策は早期に行うほどお口の維持管理がしやすくなります。
出典:日本歯科医学会 歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版(P.19)
https://www.jda.or.jp/dentist/oral_frail/pdf/manual_all.pdf
噛む習慣を減らさない
オーラルフレイルを防ぐうえで、まず意識したいのが「噛む習慣」を保つことです。噛む動作は歯だけでなく、あごや舌、頬の筋肉を使う大切な動きです。
やわらかいものばかり食べていると口の筋肉が使われにくくなり、知らないうちに機能が落ちてしまうことがあります。無理に硬いものを食べることはおすすめしませんが、食材の切り方や調理法を工夫して、自然に噛む回数を増やせる食事を心がけましょう。肉や魚などタンパク質、野菜類を適量食べる習慣を付けることも、噛む回数を増やせます。
飲み込みやすさは食べ方で変えられる
食事中にむせやすさを感じている場合でも、食べ方を少し変えるだけで楽になることがあります。ひと口を小さくする、よく噛んでから飲み込む、急いで食べないといった基本的な工夫は、飲み込みの負担を減らします。
口の乾きが気になる方は、食事中に水分を上手に取りながら食べる習慣を付けましょう。食事の合間に味噌汁やスープなどを少量口に含む習慣を付けると良いでしょう。飲み込みに不安があると食事自体が億劫になりがちですが、安心して食べられる工夫を積み重ねることが、オーラルフレイルの予防につながります。
口の環境を整えることも大切
噛む・飲み込むといった動作を支えているのは、歯や歯ぐきの健康です。歯周病や歯肉炎があると、痛みや違和感から噛む力が弱まり、口を十分に使えなくなることがあります。毎日の歯みがきでは、歯の表面だけでなく、歯と歯ぐきの境目を意識することが大切です。歯ブラシだけでなく、歯間ブラシやデンタルフロスなどで歯間掃除をする習慣をつけましょう。
少しでも気になることがあれば、早めに歯科に相談を
オーラルフレイルは、強い症状が出る前に自覚できる点が特徴です。「少し噛みにくい」「最近むせやすい」と感じた段階で、歯科に相談できると安心です。歯科はむし歯を治療するだけではなく、口腔のコンディションを整える役目もあります。
定期的に口の状態を確認してもらうことで、問題が小さいうちに対応しやすくなります。合わない入れ歯や噛み合わせの不調など、口の変化を我慢するのはおすすめしません。年齢のせいだと決めつけたりせず、気軽に歯科で相談することが、オーラルフレイルを防ぐための第一歩になります。
第5章 歯を失った場合の対応と口の機能維持
歯を失った状態が続くと、噛む力が落ちやすくなり、食事の内容や食べ方にも影響が出ます。噛みにくさを避けるために、やわらかい物を選ぶようになると、噛む回数そのものが減り、口の筋肉が使われにくくなります。この習慣はオーラルフレイルが進むきっかけの一つと考えられています。そのため、歯を失ったままにせず、入れ歯などで口の機能を補うことは、オーラルフレイル対策の一環になります。
入れ歯はオーラルフレイルの悪化を防ぐ役割も
入れ歯は「見た目を整えるためのもの」と思われがちですが、本来の役割は、噛む機能を補い、食事や会話を支えることです。噛める状態が保たれることで、食事の選択肢が広がり、口をしっかり使う習慣も続けやすくなります。一方で、合っていない入れ歯を無理に使っていると、痛みや違和感から噛むこと自体を避けてしまい、かえって口の機能低下につながる場合もあります。
入れ歯(義歯)にはいくつかの種類があります。見た目や装着感、噛みやすさは、口の状態や残っている歯の本数によって変わるため、「どれが一番良い」と一概には言えません。大切なのは、現在の口の状態に合った方法を選び、無理なく使い続けられることです。
入れ歯の種類とオーラルフレイルとの関係
| 義歯の種類 | 特徴 | オーラルフレイルとの関係 |
|---|---|---|
| 保険の部分入れ歯 | 費用を抑えやすく、基本的な噛む機能を補える | 噛む力を確保し、食事量の低下を防ぎやすい |
| ノンメタルクラスプデンチャー | 金属の留め具が目立ちにくく、見た目に配慮できる | 会話や外出への抵抗感が減り、活動性を保ちやすい |
| 総入れ歯 | 歯がほとんど残っていない場合に使用 | 噛む機能を回復し、食事の幅を保つ土台になる |
入れ歯を使う目的は「噛む機能の回復」だけではありません。日常の食事や会話を無理なく続けられる状態を保つことが重要です。そのためには、装着時の違和感や痛みを我慢せず、調整や相談を重ねながら使うことが欠かせません。義歯が合っていないと感じる場合は、「年齢のせい」「入れ歯だから仕方がない」と諦めず、歯科で検査、修理してもらいましょう。
歯を失っても適切な対応を取ることで、口の機能は支え続けることができます。入れ歯はオーラルフレイルを防ぐための一つの手段であり、口を使い続ける生活を支える存在と考えるとよいでしょう。
まとめ 口の小さな変化に早く気づき、対策を
オーラルフレイルは、噛みにくさやむせやすさ、話しづらさといった、口のささいな変化から始まります。多くの場合、強い痛みや不調が出るわけではないため、「年齢のせい」と見過ごされがちです。しかし、こうした小さな違和感こそが、口の機能が弱まり始めているサインと考えられています。
口の働きは、食事や会話を通じて、体の健康や日常の活動と深く関わっています。噛む力が落ちると食事の内容が偏りやすくなり、飲み込みにくさが続くと食事そのものが負担になることもあります。また、話しづらさや口元への不安がきっかけで、人との関わりを控えるようになる場合もあります。こうした変化が重なることで、生活の質が少しずつ下がっていくことがあります。
オーラルフレイルは早い段階で気づき、対応すれば悪化を防ぎやすい傾向があります。日々の食事や口腔ケアを見直し、必要に応じて歯科で相談することで、口の機能を維持しやすくなります。口の違和感を我慢せずに歯科を受診することは、これからの健康を支える第一歩といえるでしょう。
作成日 2026年1月16日
参考文献
日本歯科医学会 歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版
https://www.jda.or.jp/dentist/oral_frail/pdf/manual_all.pdf
日本老年歯科医学会 オーラルフレイルを知っていますか?
https://www.gerodontology.jp/committee/002370.shtml
厚生労働省 口腔機能の健康への影響
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-08-001
担当した診療所
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