つわりで歯磨きできないときは?妊娠中の歯周病対策と受診の目安
2026.01.29
ファミリー⻭科
妊娠中はつわりや体調の変化で生活が大きく変わり、食事や睡眠のリズムが崩れやすい時期です。その影響はお口の中にも及び、歯ぐきが腫れやすくなったり、歯磨きが十分にできなかったりして、歯周病が進みやすくなることがあります。特に「歯磨きのたびに血が出る」「歯ぐきがムズムズする」「口臭が気になる」といった小さな変化は、妊娠中によくあることとして見過ごされがちです。
しかし歯周病は放置すると炎症が深くなり、将来的に歯を失う原因になるだけでなく、妊娠経過にも影響する可能性が指摘されています。妊娠中のトラブルは複数の要因が関係するため一概には言えませんが、つわりが収まり体調が安定している時期に歯科健診を受けておくことは、お母さんと赤ちゃんの安心につながります。
目次
監修した先生
奈良 倫之 先生
医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長
第1章 妊娠中に歯周病が起こりやすい理由
妊娠中は「歯周病になりやすい条件」が重なりやすい時期です。歯周病は、歯と歯ぐきの境目に細菌(プラーク)がたまり、歯ぐきに炎症が起こる病気です。初期は痛みが少ないことも多く、気づかないうちに進行してしまうケースもあります。
ここでは、妊娠中に歯周病が増えやすい主な理由を整理します。妊娠中の変化を「よくあること」で終わらせず、リスクを理解して備えておくことが大切です。
女性ホルモンの増加で歯ぐきが腫れやすくなる
妊娠中は女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の分泌が急激に増えることが原因で歯ぐきが刺激に敏感になりやすいとされています。特に、妊娠中期から後期は妊娠前より高いレベルで女性ホルモンが分泌されることで、歯ぐきが腫れるリスクが上がります。
- エストロゲンがむし歯原因菌の一種を活性化させる
- 歯肉を作る細胞がエストロゲンの標的になりやすい
- プロゲステロンが炎症物質のプロスタグランジンを刺激する
これらが原因で妊娠中は歯ぐきが腫れやすく、普段と同じ磨き方でも歯ぐきが腫れたり、出血しやすくなったりすることがあります。
特に「妊娠性歯肉炎」と呼ばれる状態は、妊娠中に起こりやすい歯ぐきの炎症です。歯ぐきが赤くなる、ぷっくり腫れる、歯磨きで血が出るといった変化が出やすく、本人は「妊娠中だから仕方ない」と見過ごしてしまいがちです。ただし、歯肉炎が続くと歯周病へ進行することもあるため、違和感が続く場合は早めに歯科医院を受診し、検査を受けると安心です。
出典:日本臨床歯周病学会 患者向けリーフレット「歯周病と妊娠」
https://www.jacp.net/pdf/leaflet/leaflet_04.pdf
つわりで歯磨きが難しくなり、汚れがたまりやすい
妊娠初期はつわりによって、歯磨きを負担に感じる方が少なくありません。歯ブラシを口に入れるだけで吐き気が出る、匂いで気分が悪くなる、体力が落ちて夜は歯磨きができない、といった状況が重なると、お口の清掃状態が崩れやすくなります。
つわりで嘔吐がある場合は口の中が酸性に傾き、歯の表面が弱りやすいとされます。
歯周病は汚れ(プラーク)が長時間たまることで進行しやすいため、磨けない日が続くほどリスクが上がります。体調が悪い時期は無理に完璧を目指す必要はありませんが、「磨けない前提」で口をゆすぎ(洗口)歯科で相談することが現実的な対策になります。
食生活の変化(間食・回数増加)が歯周病を後押しする
妊娠中は食欲や味覚が変化しやすくなります。食事の回数が増えたり、少量ずつ頻繁に食べることは珍しくありません。飴やグミ、甘い飲み物などを口にする機会が増えると口の中に汚れが残りやすく、細菌が増える環境が整いやすくなります。
また、口呼吸が増える、唾液が減ったように感じる、といった変化があると、口の中が乾きやすくなり自浄作用が弱くなることもあります。歯周病予防には、歯磨きだけでなく「汚れが増えやすい生活になっていないか」を見直す習慣も大切です。
妊娠中の生活は無理に整えようとするほどストレスになりやすいので、できる範囲でリスクを減らす工夫をしていきましょう。
第2章 歯周病と早産・低体重児出産の関連
妊娠中の歯周病が注目される理由のひとつに、「早産」や「低体重児出産」との関連が指摘されています。歯周病は、歯と歯ぐきの境目にプラーク(細菌のかたまり)がたまり、歯ぐきに炎症が起きる病気です。進行すると、歯ぐきの腫れや出血だけでなく、歯を支える骨が溶けて歯がぐらつく原因にもなります。お口の病気という印象が強いですが、慢性的な炎症は全身にも影響するため、妊娠中の体調変化と重なると慎重に対処する必要があります。
厚生労働省サイトに掲載されている資料(日本歯科医師会による検討会資料)では、歯周病と妊娠について複数研究をまとめたメタ解析(複数の研究結果をまとめ、全体的な傾向や効果を明らかにする方法)が紹介されています。それによると歯周病がある妊婦では早産・低体重児出産のリスクが高くなる傾向が報告されています。たとえば、早産リスクが約2倍、低体重児出産のリスクが約2.2倍になるという報告もあり、一定の関連が示唆されています。
ただし研究条件や歯周病の重症度によって差があり、歯周病だけで妊娠経過が決まるわけではありません。
出典:厚生労働省 妊産婦における口腔健康管理の重要性
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000488879.pdf
日々の口腔ケアと歯科医院での定期健診を
注意したいのは、歯周病があるからといって必ず早産になるわけではないことです。早産や低体重児出産には感染症、子宮頸管の状態、喫煙、栄養状態、基礎疾患など多くの要因が関係し、歯周病はその中の「リスクに関与する可能性がある要因のひとつ」と考える方が現実的です。
歯周病の予防や進行抑制は、日々のケアと歯科での管理を中心にして行います。歯科健診・歯のクリーニング、そして歯磨きとデンタルフロス、歯間ブラシなどを使った日常的なデンタルケアなど、さまざまな方法でお口の清潔を保ちます。妊娠中はつわりの影響で磨き残しが増えやすいため、体調の良いタイミングで短時間でも磨く、歯間ケアを取り入れるなど、できる範囲で続けましょう。気になる症状がある方は、安定期に入った段階で早めに歯科に相談しておくと安心です。
第3章 妊娠中に歯科健診・治療を受けるタイミング
妊娠中はホルモンバランスの変化や生活習慣の変化により、歯ぐきの炎症が起こりやすい時期です。実際に、妊婦を対象とした調査では71.9%~84.5%の妊婦さんが歯肉炎または歯周炎に罹患していたことが判明しました。(研究報告による)
「妊娠中だから歯科は後回し」で済ませると、気づかないうちに状態が進行してしまう可能性があります。
しかし、歯科健診を受けることで歯周炎が収まった妊婦さんが23.8%~32%にも達し、歯科健診の重要さが示されました。
歯周病は早産などの異常妊娠のリスク因子としても扱われることがあるため、妊娠中の口腔管理は「できる時期に整えておく」ことが欠かせません。妊婦健診で忙しい時期ですが、体調と妊娠週数に合わせて歯科健診も併せて行いましょう。
参照:日本産科婦人科学会雑誌(抄録) 妊婦における歯周病の罹患状況と介入効果
http://www.jsog-oj.jp/detailAM.php?-DB=jsog&-LAYOUT=am&-recid=8073&-action=browse
まずは歯科健診で「歯周病があるか」を確認する
妊娠中の歯周病は、強い痛みが出ないまま進行することがあります。歯ぐきの出血や腫れなどがあっても、「妊娠中は仕方ない」と受け止めてしまい、治療のタイミングを逃すケースも少なくありません。
しかし、論文では妊婦の歯周病の状況を把握した上で、生活指導や治療による介入効果を評価しており、妊娠中でも適切な介入を行う意義が示唆されています。つまり「何か症状が出てから」よりも、「妊娠中のどこかで一度健診を受け、現状を把握する」こと自体が大切な第一歩になります。
健診では歯ぐきの状態、歯石の付着、歯周ポケットの深さなどを確認し、必要に応じてブラッシング指導や歯のクリーニング(口腔清掃)を行います。妊娠期はつわりなどでセルフケアが不安定になりやすいからこそ、専門職から「今の状態に合わせた磨き方」を提案してもらうだけでも、負担が軽くなることがあります。
安定期に歯科健診と治療を進めましょう
妊娠中の歯科通院は、体調が落ち着きやすい時期に短時間で行います。妊娠初期はつわりで歯ブラシが難しくなりやすく、受診そのものがストレスになる方もいます。その場合は「今は通えない」ことを前提に、うがい・洗口・歯磨きの工夫などの生活指導を中心にする方法が現実的です。
一方、妊娠中期(いわゆる安定期)に入ると歯科健診やクリーニング進めやすくなります。論文でも生活指導や治療で改善が認められ、妊娠中でも適切なタイミングと方法を選んで行うことを推奨しています。
歯周病は「放置して自然に治る」という性質のものではなく、細菌のコントロールが重要です。無理のない時期に歯科で整え、その後は日常生活で再発・悪化を防ぐ流れを作っておくと安心です。
第4章 妊娠中の歯科治療は大丈夫?レントゲン・麻酔・薬の考え方
妊娠中に歯科を受診しようと思ったとき、「赤ちゃんに影響はないのかな」と不安になる方は少なくありません。特にレントゲン撮影や麻酔、薬の使用は、お腹の赤ちゃんへの影響を懸念するかもしれません。結論から言うと、妊娠中の歯科治療は妊娠週数と体調に配慮しながら行い、歯科側も妊婦さんと赤ちゃんへの影響を最小限にしながら診療します。(治療内容によって対応が異なるため、事前に歯科医師と妊娠週数を共有しましょう)
妊娠中は虫歯や歯周病が進みやすい一方で、痛みや腫れを我慢し続けると、炎症が強くなり食事がとれない・眠れないなど、母体側の負担が増えることもあります。体調の良い時期に必要な処置を受けておくことで母子ともに安心につながります。「妊娠中だから全部ダメ」と考えるのではなく、治療内容を整理して優先順位をつけ、無理のない形で進めることです。
妊娠中の歯科治療「よくある不安」
| よくある不安 | 治療法 | 受診時に歯科医師に伝えること |
|---|---|---|
| レントゲン | 必要最小限で実施。防護エプロン等を用いて配慮される | 妊娠週数 |
| 麻酔 | 状況により使用。妊娠中であることを前提に選択される | 妊娠週数/既往歴/体調 |
| 薬(痛み止め・抗菌薬など) | 必要性と安全性を考慮して処方。自己判断で市販薬は避けること | 服用中の薬/産科での指示 |
| 治療姿勢(仰向けがつらい等) | 短時間治療・体位の調整などで対応 | 気分不良の有無/苦しい姿勢 |
歯科医院でも母子手帳の提出を
妊娠中の歯科受診では、まず母子手帳を持参し、妊娠週数や体調の波、産科からの注意点がある場合は共有しましょう。診療では長時間の処置を避け、休憩を挟むなどの対応がとられることもあります。とくに妊娠後期はお腹が大きくなり仰向け姿勢がつらくなることがあるため、治療が必要な場合は比較的体調が落ち着きやすい時期に相談しておくとスムーズです。
妊婦さんでも使える薬はあります
痛み止めや抗菌薬などの薬は、必要性がある場合に限り慎重に処方されます。「妊娠中だから薬は絶対に飲まない」と自己判断するよりも、まず歯科と産科に相談し、適切な選択肢を一緒に検討する方が安全です。市販薬についても自己判断での使用は避け、服用したい場合は必ず薬剤師や医師に確認しましょう。妊娠中の歯科治療で大切なのは我慢ではなく、医師と連携して治療の負担を減らしていくことです。迷ったときは歯科医院や産科を受診すると安心につながります。
第5章 妊娠中の歯周病対策・無理なく続けるセルフケア
妊娠中の歯周病対策は、無理やり「完璧な歯磨き」を続けることではありません。つわりや眠気、疲れで口腔ケアが難しい日があるのは自然なことです。歯周病は、歯と歯ぐきの境目にたまるプラーク(細菌のかたまり)が原因になるため、妊娠中は特に「汚れをためない工夫」を無理ない範囲で続けましょう。ここでは、妊婦さんでも実行しやすいセルフケアを整理します。
つわり期は「できる範囲で無理なく」
つわりで歯ブラシがつらい時期は、「磨けない日がある」前提で、続けやすさを優先しましょう。
歯磨きは短時間で回数を分ける
- 1回で丁寧にできない日は、30秒〜1分でもOK
- 体調が良いタイミングで、1日複数回行う
歯ブラシを変える
- ヘッドが小さいもの(奥まで入れやすい)
- 毛が柔らかいタイプ(刺激を減らす)
歯磨き粉を変える
- 香り・刺激が少ないものにする
- 泡立ちが強すぎないタイプを選ぶ
どうしても無理な日は「うがい」だけでも
- 水・お茶で口をゆすぐ
- 可能なら洗口液を補助的に使う
「今日はうがいだけでもできた」という形で、ゼロにしないことが大切です。
プラークは「歯間ケア」で除去率が上がる
歯周病は、歯と歯の間・歯ぐきの境目に汚れ(プラーク)が残ることで進みやすくなります。妊娠中は歯磨きが雑になりやすい分、歯間ケアを併用するのが効果的です。
デンタルフロスを週に数回でも入れる
- 毎日できなくても問題なし
- 出血があっても強くこすらない
歯間ブラシを併用する(歯科で使用を勧められた人のみ)
- 歯の隙間がある場合に向く
- 歯間ブラシのサイズ選びは歯科で相談を
夜だけは歯間ケアを優先する
- 朝昼が難しい場合は「寝る前に集中」でOK
歯間を触れるようになると、歯ぐきの腫れや出血が落ち着くこともあり、手応えを感じやすくなります。
「汚れをためない習慣」を作る
妊娠中は少量頻回の食事になりやすく、口の中が汚れた状態でいる時間が長くなることがあります。生活に合わせた“ゆるい対策”を入れてみてください。
食後すぐ磨けない時は、うがいでリセット
- 水・お茶で口をゆすぐ
間食の後は「うがい」だけする
- 歯磨きが無理でも、口内環境を整えやすい
寝る前だけはできる範囲で丁寧に磨く
- 体調不良の時は、無理のない範囲で
嘔吐後はまず口をゆすぐ
- つらい時に無理に磨かなくてOK
- 落ち着いてから歯ブラシへ
妊娠中のセルフケアは、頑張り続けることより「負担を減らして続けること」が重要です。体調が落ち着いたら歯科健診も活用し、クリーニングや磨き方の調整をしながら整えていきましょう。
まとめ
妊娠中はホルモンバランスや生活習慣の変化により、歯ぐきが腫れやすくなったり、歯周病が進みやすくなったりする時期です。つわりで歯磨きが難しくなると、磨き残しが増えて炎症が悪化することもあります。また、歯周病は早産や低体重児出産との関連が指摘されているため、妊娠中のお口のケアは「後回しにしない」ことが安心につながります。体調が落ち着く時期に歯科健診を受けて状態を確認し、必要に応じてクリーニングや治療を進めましょう。セルフケアは完璧を目指すより、短時間でも回数を分ける、歯間ケアを取り入れるなど、無理なく続けられる工夫が大切です。歯ぐきの腫れ・出血・口臭が続く場合は、妊娠週数に関わらず早めに歯科へ相談しましょう。
作成日 2026年1月24日
参考文献
厚生労働省 妊産婦における口腔健康管理の重要性
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000488879.pdf
日本歯周病学会 歯周治療を適切・安全に行うためのポイントー全身状態への配慮ー
https://www.perio.jp/file/news/info_230801.pdf
日本産科婦人科学会. 妊婦における歯周病の罹患状況と介入効果に関する検討(RAINBOW project). 日産婦誌 学術講演会抄録集.
http://www.jsog-oj.jp/detailAM.php?-DB=jsog&-LAYOUT=am&-recid=8073&-action=browse
(参照:2026年1月13日)
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