歯周病の症状を見逃さない!初期サインから重症化の兆候まで徹底解説
2025.11.10
ファミリー⻭科
最近、歯ぐきが赤く腫れやすい、歯みがきのたびに少し血がつく、朝起きると口がねばつく——そんな“小さな違和感”はありませんか。
歯周病はむし歯のように強い痛みで知らせてくれない「静かな病気」です。しかも40代以降で増え、放置すると歯を支える骨が少しずつ溶け、最終的には歯を失う原因になります。
とはいえ、早く気づけば進行を止めたり、健康な状態に近づけることは十分可能です。本記事では、歯周病の症状を初期から重症化のサインまで段階的に解説し、セルフチェックの要点や受診の目安、全身の健康との関わりまでわかりやすく整理します。
正しい知識で「気づく力」を高め、今日からのケアと定期検診で、あなたの歯と暮らしを守りましょう。
目次
監修した先生
奈良 倫之 先生
医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長
第1章 歯周病とは?原因と進行のメカニズム
歯周病とは、歯を支える組織(歯ぐき・歯根膜・歯槽骨)に炎症が起こり、最終的に歯が抜け落ちる可能性のある慢性疾患です。日本では成人の約8割が何らかの歯周病にかかっているといわれ、「国民病」とも呼ばれています。
原因の中心は、歯の表面に付着する歯垢(プラーク)です。
歯垢は細菌のかたまりで、1mgの中に数億個の細菌が存在するとされます。これらの細菌が出す毒素や酵素が歯ぐきに炎症を起こし、時間の経過とともに歯を支える骨(歯槽骨)を破壊していくのです。
歯周病は大きく「歯肉炎」と「歯周炎」に分けられます。歯肉炎は炎症が歯ぐきのみにとどまる初期段階で、適切なブラッシングや歯科クリーニングで回復可能です。一方、歯周炎は炎症が歯槽骨まで及び、自然には治りません。症状が進行するにつれて、歯がぐらついたり、膿が出たりするようになります。
歯周病の進行と症状
| 段階 | 主な症状 | 炎症の範囲 |
|---|---|---|
| 歯肉炎 | 歯ぐきの赤み・出血 | 歯肉のみ |
| 軽度歯周炎 | 歯ぐきの腫れ・口臭・骨吸収の始まり | 歯周組織全体 |
| 中等度歯周炎 | 歯の動揺・膿・歯ぐき下がり | 歯槽骨破壊 |
| 重度歯周炎 | 噛むと痛い・歯が抜ける | 歯槽骨の大部分が消失 |
また、歯周病は生活習慣病との関連が深いことも特徴です。喫煙、糖尿病、ストレス、睡眠不足などは歯周病を悪化させる要因として知られています。特に糖尿病は歯周病を悪化させる作用があり、歯周病の炎症が血糖コントロールを悪化させることも報告されています。
参照:厚生労働省 口腔の健康状態と全身的な健康状態の関連
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-01-006
歯周病は単なる「口の中の病気」ではなく、全身の健康を左右する慢性疾患として認識されるようになりました。次章では、歯周病の進行度に応じてどのような症状が現れるのか、国際基準に基づいて詳しく見ていきましょう。
第2章 歯周病の症状ステージ別解説
歯周病は、2017年に世界的な新基準(AAP/EFP:アメリカ歯周病学会・ヨーロッパ歯周病連盟)により「ステージ(進行度)」と「グレード(進行速度)」で分類されるようになりました。ここでは、日本歯周病学会のガイドライン(2022年)をもとに、ステージ別に症状をわかりやすく説明します。
ステージ0(健康または予備段階)
- 歯ぐきがピンク色で引き締まっている
- 歯みがき時の出血なし、歯ぐきの形も整っている
- 歯周ポケット(歯と歯ぐきのすき間)は1〜2mm程度
→ 理想的な口腔環境ですが、ここからのケア不足で歯肉炎に移行します。
ステージ1(歯肉炎)
- 歯ぐきの赤み・腫れ・軽い出血
- 歯周ポケットが3mm程度に拡大
- 歯槽骨の破壊はまだない
→ ブラッシング不足やプラーク蓄積が原因。適切なケアで完全に回復可能です。
ステージ2(軽度歯周炎)
- 歯ぐきの腫れ、口臭、歯が長く見える
- 歯周ポケットが4〜5mmに拡大
- 歯槽骨の吸収が約15%未満
→ 細菌が歯ぐきの奥まで侵入。定期的な歯科治療が必要な段階です。
ステージ3(中等度歯周炎)
- 歯ぐきが下がり、歯が動く
- 食べ物が詰まりやすい、膿が出る
- 歯周ポケットが6mm前後
- 歯槽骨吸収が15〜33%程度
→ 歯を支える骨が明らかに減少。失うリスクが現実的になります。
ステージ4(重度歯周炎)
- 噛むと痛みが出る、歯の動揺が大きい
- 歯ぐきが大きく下がり、膿が多く出る
- 歯槽骨の吸収が50%以上
- 嚢胞(のうほう)形成、歯の脱落が起こる
→ 噛む・話す・見た目の機能に重大な影響が出る段階です。補綴治療(入れ歯・ブリッジ・インプラントなど)を検討することもあります。
歯周病ステージ別の主な特徴まとめ
| ステージ | 主な症状 | 骨の破壊 | 対応方法 |
|---|---|---|---|
| 0 | 健康 | なし | 日常のブラッシング・定期検診 |
| 1 | 歯肉炎 | なし | 正しい歯みがき・歯石除去 |
| 2 | 軽度歯周炎 | 軽度(15%未満) | 歯科医院でのスケーリング |
| 3 | 中等度歯周炎 | 中等度(15~33%) | ルートプレーニング・外科治療 |
| 4 | 重度歯周炎 | 高度(50%以上) | 外科的治療・補綴治療の併用 |
このように、歯周病は「痛くないから大丈夫」と放置しているうちに進行してしまいます。ステージ1の段階で気づくことが最大の予防策です。
次章では、歯周病の初期に現れる“見逃しやすいサイン”や、自宅でできるセルフチェック方法を紹介します
第3章 見逃しやすいサインとセルフチェック法
歯周病は、痛みが少ないまま静かに進行するため、初期症状に気づかない人が多い病気です。「ちょっと血が出るだけ」「年齢のせいで歯ぐきが下がった」と思って放置すると、気づかぬうちに歯を支える骨まで壊れていることもあります。ここでは、見逃しやすいサインと、自分でできる簡単なチェック法を紹介します。
見逃しやすい歯周病のサイン
歯周病は進行に応じて症状が変化しますが、初期段階でも次のようなサインが現れることがあります。
歯周病サインと原因
| 歯周病サイン | 原因 |
|---|---|
| 歯みがきのときに血が出る | 歯ぐきの炎症(歯肉炎)の初期サイン |
| 朝起きたときの口のねばつき | 細菌が増殖している証拠 |
| 冷たい水や風でしみる | 歯ぐき下がりによる知覚過敏 |
| 歯が長く見える | 歯肉退縮(歯ぐきが下がっている) |
| 歯のすき間が広がった | 歯槽骨が溶け、歯が動いている可能性 |
| 口臭が強くなった | 歯周ポケット内の細菌や膿が原因 |
| 硬いものが噛みにくい | 噛む力を支える骨が減少している |
こうしたサインが複数当てはまる場合は、中等度以上の歯周炎が進行している恐れがあります。特に「口臭」「歯のぐらつき」「膿が出る」といった症状は、すぐに歯科医院での診察が必要です。
自宅でできるセルフチェック
次の項目に「はい」が3つ以上あれば、歯周病のリスクが高いと考えられます。
【歯周病セルフチェックリスト】
- 歯ぐきが赤く腫れている
- 歯みがきのときに血が出る
- 朝起きると口の中がねばつく
- 口臭が気になる
- 歯が長くなった気がする
- 歯と歯のすき間に食べ物がよく詰まる
- 歯が動く感じがする
- 家族に歯周病の人がいる
- 喫煙している、または過去にしていた
- 糖尿病や高血圧など生活習慣病がある
3項目以上該当する場合、早めに歯科医院で検査を受けましょう。歯周ポケットの深さを測定する「プロービング検査」や、レントゲンによる骨の吸収状態の確認などで、正確な診断が行えます。
早期発見が歯を守る最大のカギ
歯周病は「気づいたときには進行していた」というケースが少なくありません。しかし、定期的な歯科検診とプロによるクリーニング(PMTC)を受けることで、初期段階で発見・改善できる可能性が高まります。
とくに40代以降は、歯ぐきや骨の代謝が低下するため、半年に1回以上の検診が理想です。
早期にサインを見つけることは、将来の「入れ歯」や「補綴治療」を防ぐ第一歩です。
次章では、歯周病を放置するとどのような全身への影響があるのかを詳しく解説します。
第4章 歯周病を放置するとどうなる?全身への悪影響
歯周病は、単に「歯ぐきの病気」ではありません。近年の研究では、歯周病菌やその炎症物質が血流を通じて全身に影響を及ぼすことが明らかになっています。放置すると歯を失うだけでなく、命に関わる病気のリスクを高めることもあります。
歯を失うリスクと生活への影響
歯周病を放置すると、歯を支える骨(歯槽骨)が少しずつ溶けていき、最終的には歯が抜け落ちます。
公益財団法人8020推進財団の調査では、歯を失う原因の第1位が歯周(37.1%)と報告されています。
歯を失うと、食べ物をしっかり噛めなくなるだけでなく、発音のしにくさや顔の輪郭の変化にもつながります。さらに、噛む力が低下すると脳の血流量が減り、認知機能の低下リスクが高まるという報告もあります。つまり、歯周病を防ぐことは「噛む力」だけでなく、「生きる力」を守ることでもあるのです。
参照:公益財団法人8020推進財団 第2回 永久歯の抜歯原因調査
https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/document-tooth-extraction-investigation-2nd.pdf
全身の健康に広がる歯周病の影響
歯周病の炎症物質(サイトカインなど)は血液を介して全身に拡散します。これが、糖尿病・心疾患・脳梗塞などの生活習慣病の発症や悪化に関与することがわかっています。
歯周病の関連疾患
| 関連疾患 | 歯周病との関係 |
|---|---|
| 糖尿病 | 歯周病の炎症が血糖コントロールを悪化させる。治療によりHbA1cが改善する例も。 |
| 心筋梗塞・動脈硬化 | 血管内に歯周病菌が入り、炎症性物質を増やして血栓を作りやすくする。 |
| 脳梗塞 | 歯周病菌が脳血管の炎症を誘発する可能性がある。 |
| 誤嚥性肺炎 | 高齢者では口腔内の細菌が気道に入り、肺炎を起こすリスクが上昇。 |
| 妊娠合併症 | 妊婦の歯周病は早産や低体重児出生のリスクを高める。 |
特に糖尿病との相互関係は注目されています。歯周病治療によって血糖値が改善するという臨床研究も多く、「医科と歯科の連携治療」が推進されています。
歯周病と生活習慣の関係
喫煙、睡眠不足、ストレス、栄養バランスの乱れも歯周病を悪化させる要因です。
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、歯ぐきの酸素供給を妨げるため、症状を隠しながら進行を早める特徴があります。
また、口呼吸の習慣やドライマウス(口腔乾燥症)も細菌の繁殖を助長します。
歯周病は「口の中だけの問題」ではなく、生活全体を映し出す病気といえます。
歯周病を防ぐためにできること
- 毎日の正しいブラッシング(歯ブラシ+フロス・歯間ブラシを併用)
- 3〜6か月に1回の歯科検診・クリーニング
- 禁煙とバランスの取れた食生活
- 適度な運動とストレスケア
歯周病を防ぐことは、全身の健康維持にもつながります。今からの一歩が、将来の「健康寿命」を大きく延ばすのです。
まとめ
初期のうちは痛みもなく、歯ぐきの腫れや出血など小さなサインを見逃しがちですが、放置すると歯を支える骨が破壊され、最終的には歯を失うこともあります。さらに、糖尿病や心疾患、誤嚥性肺炎など全身の病気とも深く関係しています。
しかし、早期に気づき、正しいケアを続ければ進行を止めることは可能です。
日々のブラッシングに加え、定期的な歯科検診を受けることが、健康な歯ぐきと人生を守る第一歩です。
作成日 2025年11月6日
参考文献
日本歯周病学会 歯周病のガイドライン2022
https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_2022.pdf?20241021
公益財団法人8020推進財団 第2回 永久歯の抜歯原因調査
https://www.8020zaidan.or.jp/pdf/document-tooth-extraction-investigation-2nd.pdf
担当した診療所
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