歯周病を防ぐために今できること ― 正しい予防法と生活習慣
2025.11.17
ファミリー⻭科
年齢とともに「歯ぐきが下がってきた」「歯磨きで血がにじむ」といった小さな変化に気づく方は少なくありません。つい見逃してしまいがちですが、静かに進行する歯周病のサインかもしれません。
歯周病は痛みが乏しく、放置すると歯を支える骨までダメージが及び、やがて歯を失ってしまいます。
しかし必ずしも歯を失うまで悪化するとは限りません。毎日のセルフケアと定期的な歯科受診を組み合わせれば、ある程度の歯周病の予防は可能です。
本記事では、歯周病という病気の正しい理解から、今日から実践できる磨き方、生活習慣の見直し、歯科医院で受けるプロフェッショナルケアまでを解説します。
さらに、日本歯周病学会の最新ガイドラインに沿って、年齢・持病・喫煙などの個別リスクにどう向き合えばよいかも整理しました。
将来の自分の歯を守るために、まずは今日から一つずつ、できることを始めていきましょう。
目次
監修した先生
奈良 倫之 先生
医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長
第1章 歯周病はどんな病気?予防の第一歩は正しい情報から
歯周病(ししゅうびょう)は、歯を支える「歯ぐき」や「歯槽骨(しそうこつ)」と呼ばれる骨が、細菌によって炎症を起こし、徐々に壊されていく病気です。初期には痛みが少なく、気づかないうちに進行するのが特徴です。そのため、歯周病は「沈黙の病気」とも呼ばれています。
歯肉炎と歯周炎の違い
歯周病は大きく「歯肉炎」と「歯周炎」に分けられます。
- 歯肉炎 歯ぐきに炎症が起き、赤く腫れて出血しやすくなった状態。歯を支える骨への影響はまだありません。
- 歯周炎 炎症が進行し、歯を支える骨(歯槽骨)が溶け始める状態。歯がぐらつき、最終的には抜け落ちることもあります。
歯周病の主な原因は、プラーク(歯垢)と呼ばれる細菌のかたまりです。プラークは口の中にいる菌が作る付着物で、1mg中に10億個以上の細菌がいます。食後数時間でプラークが形成されます。
歯と歯ぐきの境目にたまったプラークが、時間とともに硬くなって歯石になります。歯石は表面がザラザラしているため、細菌を付着、増殖させやすい環境を作ります。
出典:厚生労働省 プラーク/歯垢
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/teeth/yh-031
歯周病の進行ステージ
日本歯周病学会のガイドライン(2022年改訂版)では、歯周病はステージ1〜4(軽度〜重度)に分類されます。
歯周病の進行ステージ
| ステージ | 状態 | 主な症状 |
|---|---|---|
| ステージ1(軽度) | 歯肉炎レベル | 歯ぐきの腫れ、出血 |
| ステージ2(中等度) | 骨の吸収が始まる | 歯ぐきの下がり、口臭 |
| ステージ3(進行期) | 骨の破壊が明確 | 歯のぐらつき、噛みにくさ |
| ステージ4(重度) | 歯の支持力が失われる | 噛むと痛い、自然脱落の危険 |
歯周病は放置すればするほど治療が難しくなりますが、初期段階で気づいて対策すれば、進行を止めることができます。
歯周病の予防において最も大切なのは、「自分の口の状態を知ること」。痛みがなくても、歯ぐきの色や出血、口臭などの小さなサインを見逃さず、早めに歯科医院を受診することが予防の第一歩となります。
第2章 毎日のセルフケアでできる歯周病予防
歯周病の最大の原因は、歯と歯ぐきの境目にたまる「プラーク(歯垢)」です。
プラークは、食べかすではなく細菌が形成する細菌のかたまりです。時間が経つと硬くなって歯石になります。歯石は通常の歯磨きでは取れません。
セルフケアでできる歯周病予防の基本は「プラークをためない」こと。そのために重要なのが、毎日の正しいブラッシング習慣です。
正しい歯磨きのポイント
- 歯ブラシの選び方 ヘッドが小さく、毛が密になっているものを選ぶと歯ぐきの境目に届きやすくなります。
- 磨く角度 歯と歯ぐきの境目に45度の角度でブラシを当て、小刻みに動かす「バス法」が効果的です。
- 時間の目安 1回あたり2分以上。就寝前の歯磨きは特に丁寧に行いましょう。
- 力を入れすぎない 強く磨くと歯ぐきを傷つけ、歯肉退縮を招くことがあります。
歯を「磨く」よりも「プラークを落とす」意識で、1本ずつ丁寧に行いましょう。歯磨きの正しい手順は、歯科衛生士の指導を受けると改善できます。
補助清掃用具を使う
歯ブラシだけでは、歯と歯の間の汚れの約40%が残るといわれています。取り切れない歯垢はデンタルフロスや歯間ブラシを組み合わせて除去しましょう。
補助清掃用具と特徴
| 清掃用具 | 特徴 | おすすめの人 |
|---|---|---|
| デンタルフロス | 糸状。歯と歯の間の汚れを除去 | 歯並びが比較的良い人 |
| 歯間ブラシ | 小さなブラシ。歯間が広い部分に有効 | 中高年で歯ぐきが下がってきた人 |
| 電動歯ブラシ | 振動や回転で効率的に清掃 | 力の加減が苦手な人や高齢者 |
これらを毎日1回以上、夜の歯磨き時に取り入れることで、プラークを大幅に減らすことができます。
洗口液(マウスウォッシュ)の活用
薬用成分配合のマウスウォッシュを使うことで、口腔内の細菌を減らし、炎症の予防に役立ちます。ただし、うがいだけでは歯垢は取れません。ブラッシングの補助として活用することがポイントです。
刺激が苦手な方はアルコール無配合を選ぶ、口腔乾燥が強い方は保湿成分配合を選ぶなど、体質や目的に合わせて補助的に使いましょう。
「磨いている」と「磨けている」は別です
たとえ歯磨きは毎日していても、実際には汚れが落ちていないケースが多く見られます。せっかく丁寧に歯磨きをしているつもりでも、誤った歯磨きで歯垢が残り、歯肉を痛めることもあります。
歯科医院では「染め出し液」を使って磨き残しを確認できるので、一度チェックしてみると良いでしょう。
正しい磨き方を身につけることで、セルフケアの効果は格段に高まります。
第3章 生活習慣から見直す歯周病予防
歯周病の予防は、歯磨きだけでは不十分です。近年の研究では、生活習慣や全身の健康状態が歯周病の発症・進行に深く関係していることが明らかになっています。毎日の食事、喫煙、睡眠、ストレス管理などを見直すことが、長期的な予防に欠かせません。
食生活の改善で歯ぐきを守る
歯ぐきの健康は、血流と栄養状態に左右されます。ビタミンCやE、たんぱく質、カルシウムなどを意識的に摂ることが大切です。
歯ぐきの健康を支える栄養素
| 栄養素 | 主な働き | 含まれる食品例 |
|---|---|---|
| ビタミンC | 歯ぐきのコラーゲン合成を促進 | 果物、生食できる野菜類 |
| たんぱく質 | 組織の修復、免疫維持 | 魚、卵、大豆製品 |
| カルシウム | 骨や歯の強化 | 牛乳、小魚、チーズ |
| ビタミンE | 血行を改善 | ナッツ類、かぼちゃ |
また、間食の回数や甘味飲料の摂取頻度にも注意が必要です。糖分を摂る回数が多いと、細菌が酸を出して口内環境が悪化し、歯周病菌が増えやすくなります。「甘いものは時間を決めて」「食後30分以内のブラッシング」を習慣化しましょう。
禁煙は最大の歯周病予防
喫煙は歯周病の最大のリスク要因の一つです。タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は血管を収縮させ、歯ぐきの血流を悪化させます。その結果、炎症の治りが遅くなり、免疫機構が低下します。
実際、非喫煙者に比べて喫煙者は歯周病にかかるリスクが2〜6倍に高まると報告されています。さらに、歯ぐきが黒ずみやすく、出血しにくくなるため、病気に気づきにくくなるのも厄介な点です。喫煙習慣がある方はできるだけ早く禁煙にチャレンジしましょう。内科の「禁煙外来」を受診すると、スムーズに禁煙ができます。
禁煙後は血流が回復し、歯ぐきの色も徐々に自然なピンクに戻っていきます。ピンクに戻った歯ぐきは健康の証です、歯磨きなどを丁寧に行うことで、徐々に歯周病リスクを下げていくことができます。
ストレスと睡眠も重要
ストレスが続くと、体の免疫力が低下し、歯周病菌に対する抵抗力も弱まります。また、無意識の歯ぎしりや食いしばりも増え、歯や歯ぐきに負担をかける原因になります。
予防のためには、十分な睡眠(6〜8時間)をとり、リラックスする時間を意識的に設けましょう。睡眠不足や過労が続くと唾液の分泌が減り、口内の自浄作用が弱まるリスクを高めます。
全身疾患との関わり
糖尿病、高血圧、心血管疾患などの生活習慣病と歯周病は相互に影響し合います。特に糖尿病では、血糖コントロールが悪いと歯周病が悪化し、歯周病が進行するとさらに血糖が上がる「悪循環」が起こります。
そのため、かかりつけ医と歯科医が連携し、全身の健康管理と口腔ケアを並行して行うことが理想です。生活習慣病や基礎疾患のある方は、歯科医院を受診する際に必ず病名を申告して下さい。
歯周病の予防は、口の中だけで完結しません。全身の健康とつながる「生活習慣の改善」で予防効果が上がります。
第4章 歯科医院で行うプロフェッショナルケア
どんなに丁寧に歯を磨いても、すべての汚れを完全に落とすことはできません。とくに歯と歯ぐきの境目や奥歯の裏側などは歯ブラシが届きにくく、歯石やバイオフィルム(細菌の膜)が残りやすい部分です。
こうした「セルフケアの限界」を補うのが、歯科医院で行うプロフェッショナルケアです。定期的なメンテナンスは、歯周病予防に欠かせない大事なプロセスです。
定期検診で早期発見・早期対応
歯周病は自覚症状が出にくいため、見た目や痛みだけで判断するのは控えましょう。歯科医院では以下のような検査を行い、リスクを数値化して把握します。
歯周病リスク検査と目的
| 検査内容 | 目的 |
|---|---|
| 歯周ポケット測定 | 歯ぐきの奥行きを測り、炎症や骨吸収の程度を確認 |
| 出血・動揺のチェック | ブラッシング時の出血や歯のぐらつきを評価 |
| レントゲン撮影 | 骨の状態や隠れた歯石を確認 |
| プラーク染め出し | 磨き残し部位を可視化し、ブラッシング指導に活用 |
これらをもとに、自分の「歯周病リスク」を把握し、最適な予防プランを立てます。
軽度であれば、正しいセルフケアとプロケアを組み合わせることで歯周病の進行を食い止めることができます。
歯石除去とPMTC(プロによるクリーニング)
歯科医院では、歯ぐきの上や下に付着した歯石をスケーリングという処置で除去します。歯ぐきの中の歯石は自分では取れないため、定期的な除去が必要です。
さらに、歯面の汚れやバイオフィルムをPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)で徹底的に清掃します。PMTC後は歯面がツルツルになり、プラークが再付着しにくくなる効果もあります。
日本歯周病学会のガイドライン2022では、「歯周治療後も生涯にわたる継続管理が不可欠であり、プラークコントロールが不十分だと再発しやすくなる」と明記されています。このガイドラインは治療後の話ですが、歯周病になる前も歯石除去やPMTCは有効です。
出典:日本歯周病学会『歯周治療のガイドライン2022』p.19
https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_2022.pdf?20241021
メンテナンスの頻度と内容
歯周病予防には「治療して終わり」ではなく、「治療後の管理」が欠かせません。
- 3〜6か月に1回の定期メンテナンスが目安。
- 歯石除去・歯ぐきの検査・ブラッシング指導を行う。
- 状態に応じて、より短い間隔でのフォローが必要な場合もあります。
高齢者や糖尿病・喫煙などリスクの高い方は、3か月に1回以上の受診をおすすめします。
歯を失った場合の補綴治療も予防の一環
歯周病で歯を失った後、放置すると残った歯に負担がかかり、さらに病気が進みやすくなります。
ブリッジ、入れ歯、インプラントなどの補綴治療を適切に行うことで、噛み合わせや清掃性を保ち、口腔全体の健康維持につながります。
定期的なプロケアがもたらす効果
- 自分では落とせない汚れを除去できる
- 早期に炎症を発見・治療できる
- モチベーション維持につながる
- 長期的に歯を残せる確率が上がる
歯科医院でのケアは「治療」ではなく「予防の延長線上」にあります。
痛みが出る前に通うことで、歯を守る力が何倍にも高まります。
まとめ
歯周病は「静かに進行する病気」ですが、毎日のセルフケアと定期的なプロケアで確実に予防できる病気でもあります。
歯を失う原因の第1位が歯周病といわれるなか、40代以降での予防意識と習慣は今後の健康生活を左右します。
<歯周病の“手遅れサイン”を見逃さない!40代から始まる症状とは?>
家庭では、歯ブラシと補助清掃用具を使った丁寧なプラークコントロールを継続し、食生活・禁煙・睡眠などの生活習慣も整えましょう。そして歯科医院での定期検診を欠かさず、歯石除去やブラッシング指導を受けることで、自分の口の状態を客観的に把握できます。
「歯ぐきから血が出る」「口臭が気になる」といった小さなサインを見逃さず、早めの受診と日々のケアを心がけること。それが、一生自分の歯で食事を楽しむための最善の予防法です。
歯周病は防げる病気。今日のケアが、10年後のあなたの笑顔を守ります。
作成日 2025年11月7日
参考文献
日本歯周病学会 歯周病治療のガイドライン2022
https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_2022.pdf?20241021
厚生労働省 プラーク/歯垢
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/teeth/yh-031
担当した診療所
ファミリー歯科
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