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インプラントってどんな治療?ブリッジ・入れ歯との違いをやさしく解説

2025.11.23

ファミリー⻭科

インプラントってどんな治療?ブリッジ・入れ歯との違いをやさしく解説

歯を失ったときの治療は、「欠けた部分だけを補う」のでは不十分です。口全体の噛み合わせを調整することが大切です。代表的な選択肢にはインプラント・ブリッジ・入れ歯(義歯)があります。

インプラント、ブリッジ、入れ歯にはそれぞれ利点と注意点があり、「これが最も優れている」と一概に言えません。患者さんの残っている歯の状態、骨の量、生活習慣、費用、治療にかけられる期間などによって、最適な選択は異なります。

 

監修した先生

奈良 倫之先生

奈良 倫之 先生

医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長

第1章 インプラント・ブリッジ・入れ歯の特徴

まずは、3つの治療法の特徴を紹介します。

3つの補綴治療のちがい

項目 インプラント ブリッジ 入れ歯(義歯)
基本の仕組み あごの骨に人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を固定する 両隣の歯を削り、連結したかぶせ物で繋げて固定する 取り外し式の人工歯を歯茎の上に乗せる
周囲の歯への影響 隣の歯を全く削らない 両隣の歯を大きく削る必要がある わずかに歯を削る必要がある。部分入れ歯はバネや留め具が歯に負担をかけることがある
噛む力 天然歯に近い噛み心地を得やすい 中程度 弱くなることが多い
見た目(審美性) 自然に見せやすい 素材により自然に近づけられる 種類により差が出る
費用 保険適応外で1本あたりが最も高価 保険適応のものもあるが、最低3本以上の治療となる

比較的安価で保険適用の範囲も広い

周囲の歯や顎に優しい

高品質な入れ歯は高価

治療期間と管理 手術と定期管理が必要 清掃と支台歯のケアが重要 調整・作り直しを前提に長期管理が必要

歯周病の進行度による選択

歯周病はステージ(重症度)とグレード(進行速度・リスク)で評価し、最適な治療法を考えます。

  • ステージ(Stage:骨の喪失量、歯の喪失数、噛み合わせの影響などから重症度を判断
  • グレード(Grade:喫煙や血糖コントロールなど、進行のしやすさを加味して評価

補綴治療を考える際、この評価は重要な指針になります。

おおよそ、以下のような治療基準になります。

  • Stage III(軽度〜中等度)
     多くの治療法が選択できます。歯磨きやデンタルフロスなどを使った清掃習慣の改善が歯の長期維持の鍵になります。
  • Stage IIIIV(重度)
     支えとなる歯が弱く、ブリッジでは負担が過大になりやすいため、インプラントまたは入れ歯を検討されることが一般的です

選択のときに大切な視点

治療は「見た目」や「費用」だけで決めるのではなく、さまざまな角度から考慮すべきです。

  • 残っている歯と骨の状態
  • 噛む力をどこまで回復したいか
  • メンテナンス(清掃・通院)をどれだけ重視するか
  • 長期的に歯を残したいという視点を持てるか

今だけではなく、5年後・10年後の歯の温存を見すえることが、治療選択では最も重要です。

第2章 インプラントとは?骨に支えられる人工の歯

インプラントは、歯を失った部分に人工歯根(チタン製)をあごの骨に埋め込み、その上に人工の歯を装着する補綴治療です。チタンは生体との親和性が高く、骨と結合する性質(オッセオインテグレーション)を持つため、自分の歯に近い噛み心地を再現しやすいとされています。

仕組みと治療の流れ

インプラントは「歯の根から再建する」点が特徴で、ブリッジや入れ歯と大きく異なります。歯を根から再建できる方法は、現時点ではインプラントだけです。

インプラントは症例や部位、構造、咬合設計により噛み心地が大きく変わります。適切な術前評価とメンテナンスが欠かせません。

  1. 診査・検査
     レントゲンやCTを用いて、骨の量・歯ぐきの状態・噛み合わせ・神経や血管の走行を評価します。
  2. 人工歯根を骨に埋める処置(外科処置)
     一般的には局所麻酔下で行います。
  3. 骨と結合する期間(23ヶ月程度)
     個人差があり、骨の質、喫煙、糖尿病の有無などが影響します。喫煙習慣や糖尿病は、結合するまでの期間が長くなります。
  4. 人工の歯(上部構造)を装着
     形・色・噛み合わせを既存の歯と調和させるよう設計します。
  5. 定期的なメンテナンス
     手術後も、歯科医院での定期清掃とチェックが不可欠です。

メリット

  • 噛む力が戻りやすい
     歯の根から再建するため、硬いものを噛んだときの感覚が抜歯前に近づきます。
  • 周囲の歯を削らない
     ブリッジのように、支えのために隣の歯を犠牲にしません。
  • 見た目が自然になりやすい
     前歯部など審美性が求められる部位でも調和しやすいとされています。

デメリット・注意点

  • 外科処置が必要
     身体の状態や薬の服用(血液サラサラの薬など)によっては、慎重な判断が必要になります。
  • 治療期間が比較的長い
     骨と結合する期間を含めるため、短期間での完成は難しいことがあります。
  • 費用が高い
     
    自費診療のため費用は高めです。医院、設計、使用素材によって費用差がありますが、1歯で100万円を超えることがあります。
  • インプラント周囲炎、顎骨壊死のリスク
     歯周炎を防ぐために禁煙、定期メンテが欠かせません。骨吸収抑制薬(ビスホスホネート・デノスマブ等)の服用は顎の骨が壊死するリスクがあり、慎重な投与が求められます。
    参照:国立長寿医療研究センター 骨吸収抑制薬と顎骨壊死
     https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/080.html

インプラントと歯周組織の関係

インプラントは虫歯にはなりませんが、インプラント周囲炎という炎症が起こることがあります。
 歯周病がインプラント周囲の組織に起きる状態で、放置するとインプラントがグラつく(動揺する)こともあります。もともと歯周病が進行していた方(Stage III〜IV / Grade Cなど)は、インプラント周囲炎の発生リスクが高いとされています。

喫煙・糖尿病もインプラント歯周炎のリスクを高めます。

インプラントを検討する際は、「インプラントを埋め込む前に、歯周病の管理を整える」ことが求められます。

インプラントが向いている場合の目安

  • 隣の歯をできるだけ削りたくない
  • 噛む力や発音の自然さをできるだけ保ちたい
  • 清掃や通院管理を継続できる
  • 骨や歯ぐきの状態が安定している、または治療で改善できる

第3章 ブリッジとは?両隣の歯で支える補綴治療

ブリッジは、失った歯の両隣の歯を土台(支台歯)として使用する補綴治療です。
土台となる歯を削り、複数の人工歯をつなげて「橋(ブリッジ)」のようにかけることで、見た目と噛む機能を補います。ブリッジは固定式なので取り外しの必要がなく、装着感が比較的自然な点が特徴です。

ただし、支台歯にかかる負担が大きくなるため、「周囲の歯をどれだけ守れるか」という観点から、注意して検討する必要があります。

ブリッジの仕組み

ブリッジは欠損部の両隣の歯を削り、3つ以上連なったかぶせ物で覆います。

(例)

 支台歯(削る)   欠損部      支台歯(削る)

 ┏━━━┓ ┏━━━┓ ┏━━━┓

 ┃   ┃― ┃人工歯┃―┃   ┃ ← つながった被せ物で補う

 ┗━━━┛ ┗━━━┛ ┗━━━┛

支台歯が健全であるほど、長期的な安定が期待しやすいとされています。

メリット

  • 手術が必要ない
     外科処置に不安がある方でも検討しやすい治療です。
  • 固定式で違和感が少ない
     入れ歯のように取り外す必要がなく、日常生活に馴染みやすい傾向があります。
  • 保険適用の範囲で治療できる場合がある
     費用面の負担を減らせる可能性があります。

デメリット・注意点

  • 健康な隣の歯を削る必要がある
     ブリッジ最大のデメリットです。
     歯を削ると、歯の寿命が短くなる可能性があります。
  • 支台歯に過度の負担が集中する
     噛む力を支える面積が減るため、土台となる歯が弱っていくことがあります。
  • 清掃が難しい部分ができやすい
     連結した部分には歯間ブラシやフロスが必須となり、清掃方法の習慣化が重要です。

歯周病ステージとブリッジ適用

ブリッジは、支台歯の状態が安定している場合に適した治療です。
 歯周病の進行度に応じて、適応のしやすさが変わります。

歯周病ステージとブリッジ適応の考え方

歯周病ステージ
(Stage)
支台歯に起こりやすい課題 ブリッジ適応の考え方
Stage I~II(軽度~中等度) 骨の支持が比較的保たれている 適応しやすいが、清掃習慣を整えることが前提
Stage III~IV(重度) 骨の支持が弱くなり、支台歯が揺れやすい 支台歯が治療中・治療後に負担過多となることが多く、長期安定は難しい場合がある

ブリッジが可能かどうかは、歯周組織(歯を支える骨と歯ぐき)の状態で大きく左右されます。

ブリッジが向いている場合の目安

  • 手術を避けたい、もしくは全身的な理由で外科治療が難しい
  • 支台歯がしっかりしており、歯周病の進行が抑えられている
  • 清掃方法の指導を受け、継続できる見込みがある

ただし、「見た目が良い」「費用が抑えられる」という理由だけで急いで選ばないことが大切です。
支台歯は、一度削ると元には戻りません

第4章 入れ歯(義歯)とは?取り外して使う補綴治療

入れ歯(義歯)は、取り外し式の人工の歯で、失った歯の噛む機能と見た目を補う治療です。
部分的に歯が残っている場合は部分入れ歯、すべての歯を失った場合は総入れ歯が用いられます。

入れ歯は、治療期間や費用の面で現実的な選択肢になることが多い一方、使用感や噛む力については、他の補綴治療と比べて差が出やすい点が特徴です。

入れ歯の種類

種類 対象 特徴
部分入れ歯(パーシャルデンチャー) 歯が一部残っている場合 残っている歯に金属のバネ(クラスプ)などで固定する
総入れ歯(フルデンチャー) 歯がすべてない場合 歯ぐき全体に密着させて支える
ノンクラスプデンチャー 審美性を重視した部分入れ歯 金属のバネを使わず、見た目に配慮した柔らかい素材を使用

見た目の自然さや違和感の少なさは設計や素材によって大きく変わります。使用目的・生活スタイルに合わせた選択が大切です。

メリット

  • 治療期間が比較的短い
    歯ぐきの状態が整っていれば、比較的スムーズに製作できます。
  • 費用を抑えやすい
    保険診療でも作製できるため、経済的負担を抑えたい場合に適しています。
  • 作り直しや調整がしやすい
    長期的に状態が変化した際にも対応できます。

デメリット・注意点

  • 噛む力が弱まりやすい
    特に総入れ歯では、硬いものを噛む際に不便を感じることがあります。
  • 装着時に違和感が出やすい
    「歯ぐきの上に乗せる」構造であるため、慣れるまで時間が必要になる場合があります。
  • 支えとなる歯や歯ぐきへの負担が蓄積しやすい
    部分入れ歯では、バネがかかる歯(鉤歯)に負担が集中し、長期的にはその歯が弱くなることがあります。

歯周病と入れ歯の関係

歯周病が進行した方(Stage IIIIV)は、歯の支持構造(骨)の量が減っていることが多いため、入れ歯の支持も不安定になりやすい傾向があります。
そのため、歯ぐきの状態を整える治療(歯周治療)入れ歯の設計という順序で治療を行うことがあります。

入れ歯が向いている場合の目安

  • 治療費を抑えたい
  • 手術への不安が強い
  • 残っている歯や骨の量が少なく、ブリッジやインプラントの適応が限られる
  • 定期的に調整のために通院できる

入れ歯は「簡易的な治療」と思われることがありますが、実際には「装着後にどうやって調整していくか」が重要です。
痛みやゆるみは微調整で改善されることが多いため、違和感があれば我慢せずに歯科医院に相談しましょう。簡単な微調整で驚くほど装着感が良くなることもあります。

入れ歯は「どの素材を選ぶか」「どこにこだわるか」で、快適さ・持ち・見た目が大きく異なります。
本記事では概要を説明しましたが、より細かい素材比較や実際の設計例を知りたい方のために、高品質な入れ歯の設計ポイントをまとめた専門的な解説ページもあります。
もっと詳しく理解したい方は参考資料としてご覧ください。

まとめ 自分に合った補綴治療を選ぶために

歯を失っても、インプラント・ブリッジ・入れ歯の3つの選択肢があります。
 それぞれに利点と注意点があり、「どれが最も優れているか」ではなく、「どれが自分に合うか」を見極めましょう。

  • インプラント
     噛む力や見た目を回復しやすく、周囲の歯を守りやすい治療です。
     ただし、外科処置や長期管理が必要で、歯周病の既往がある場合は周囲炎のリスクに配慮しなければなりません。
  • ブリッジ
     固定式で違和感が少なく、手術を必要としません。
     しかし支台となる歯を削ることが大きな負担となり、長期的に歯を弱くしてしまう可能性があります。
  • 入れ歯(義歯)
     費用と期間の面で現実的な選択肢になりやすく、作り直しにも対応できます。
     ただし、噛む力や装着感には慣れが必要で、時間をかけてお口に馴染ませていきます。定期的な調整と通院が前提となります。

また、2017年に改訂された歯周病分類(AAP/EFP)のように、歯ぐきと骨の状態、炎症のコントロール、進行速度の見極めは、どの治療を選ぶ際にも欠かせない要素です。

治療選択で大切にしたいポイント

  • 510年先を見すえた選択であること
  • 「今」だけでなく、「将来、残せる歯を増やす」ことを考える
  • 清掃の習慣を整え、定期検診を続けられるかどうか
  • 費用・時間・メンテナンスのバランスをとる

補綴治療は単なる「歯を補う作業」ではなく、これからの生活を形づくる選択でもあります。

迷われている場合は、まずは歯科医院でメリット・デメリットをきちんと説明してくれる医療者と、納得できる選択を一緒に考えましょう。

 

作成日 2025年11月19日

参考文献

日本補綴歯科学会 一般の方へ「補綴歯科」ってどんな治療?
https://www.hotetsu.com/about.php

担当した診療所

ファミリー歯科

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