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ゼロシステムで変わる入れ歯治療 精密な型取りで外れにくい・痛くない義歯へ

2025.12.26

はすぬま⻭科

ゼロシステムで変わる入れ歯治療 精密な型取りで外れにくい・痛くない義歯へ

入れ歯に求められる条件は、ここ数年で大きく変化しました。以前は「噛めればよい」という考え方が主流でしたが、現在は仕事や家庭生活のなかで長時間装着し、自然な見た目や快適さまで求められるようになっています。
特に40〜60代の方は人前で話す機会の多さやオンライン会議の増加から、入れ歯の金属が見えることへの抵抗感、話しにくさ、食事のしづらさといった悩みをよく聞きます。従来の金属床義歯やノンメタルクラスプデンチャーには多くの利点がありますが、「強度」「薄さ」「審美性」「装着感」「噛み心地」のすべてを満たすのは簡単ではありません。

こうした課題に応える形で登場したのが、ゼロシステムという新しい製作方法です。入れ歯の作成前に厳密に噛み合わせの位置や歯ぐきの状態を確認することで、、自然な見た目としっかりした保持力を両立する入れ歯が作れます。少ない来院回数で完成するだけでなく、完成後の調整回数も減らせます。
ゼロシステムは従来の義歯とは異なる方法として導入する医院が増えつつあります。本記事ではゼロシステムの特徴、従来義歯との違い、費用、治療の流れを解説します。

監修した先生

奈良 倫之先生

奈良 倫之 先生

医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長

第1章 ゼロシステムとは何か─精密義歯製作システムの特徴

合わない入れ歯の「噛みにくさ」「外れやすさ」「痛み」といった不快感は、日常生活の質を大きく下げてしまいます。従来の入れ歯製作では噛む位置や歯ぐきのたわみを正確に捉えられず、完成後に何度も調整が必要になることが少なくありませんでした。こうした課題に対応する方法として提案されているのが、ZERO SYSTEM®(ゼロシステム)という作成法です。

ゼロシステムの基本コンセプト

ゼロシステムは、入れ歯製作プロセスの各工程で誤差を可能な限り排除し、正確なかみ合わせを再現することを目指した義歯製作システムです。入れ歯の製作前に専用の装置を使い、患者が実際に噛んだ状態に近い形での型取りや噛み合わせ測定を行います。
精密な設計をもとに入れ歯を作成するため、装着時のズレや違和感の軽減が期待されています。

精密さがもたらすメリット

ゼロシステムの大きな特徴は、噛み合わせの精度を高めることにあります。従来の入れ歯の作り方では歯を並べてから噛み合わせを確認する段階で微妙なズレが生じやすく、完成後に何度も調整が必要になります。しかしゼロシステムでは、型取りから噛み合わせの確認までを精密に行い、痛みを抑え、外れにくい義歯を作成することができます。

治療時間と通院回数の軽減

従来の義歯製作では調整のために複数回の来院が必要でした。ゼロシステムは各工程を適切に進めることができるため、通院回数を減らすことができます。型取りや調整の時間が短縮できるため、患者さんの身体的、精神的な負担を抑えられるのも大きなメリットです。

第2章 入れ歯のよくある困りごとをどう解決する?─ゼロシステムが生まれた理由

入れ歯の悩みとして最も多いのが、噛みにくい・外れやすい・痛みの3つです。これらは一見別々の症状に見えますが、本質的には「入れ歯と歯ぐき、あごの動きのズレ」から生まれることが多くあります。従来の義歯製作では、実際に患者が噛んでいる時の力のかかり方や粘膜の動きを完全に再現することが難しく、装着後に違和感が出ることが少なくありません。

ゼロシステムは、このズレの改善を図るために考案されたシステムとされています。歯型の型取り、噛み合わせ、歯並びの決定の各工程を精密化することで、入れ歯と口腔内の動きを一致させることを目指しています。

「痛みが出る」原因にアプローチする

入れ歯が歯ぐきに当たって痛む場合、多くは「局所的な負荷」が原因です。従来法では噛む位置がわずかにズレるだけで特定の部位に力が集中し、赤みや傷が生じてしまいました。

ゼロシステムでは、患者が実際に噛んだ時の形に近い状態で型取りを行うため、以下の症状を最小限に抑えることができます。

  • 義歯の沈み込み
  • 負荷の集中
  • 粘膜のたわみの誤差

「外れやすい」「浮く」問題を改善する

外れやすい義歯には以下の問題があります。

  • 噛む位置のズレ
  • 吸着力の不均一
  • 粘膜の動きを反映できていない

ゼロシステムでは噛み合わせの再現性を高めて入れ歯と粘膜の密着を安定させ、浮きにくく、外れにくい改善を目指す設計が採用されています。特に部分入れ歯では支えとなる歯への負担も軽減できるため、長期間の使用における快適性に配慮した設計が特徴とされています。

「しゃべりにくい」「食事がしづらい」ストレスを減らす

入れ歯が厚かったり動いたりすると、舌の動きや発音に影響し、食事にも不便を生じます。ゼロシステムでは以下のような点を設計に反映しやすく、発音と咀嚼の両方がスムーズになりやすくなります。

  • 必要最小限の厚さ
  • 噛んだ状態を反映した形態
  • 義歯の沈み込みを抑える設計

ゼロシステムは従来製法の入れ歯よりも「自然な使い心地」を得やすく、長時間の装着にも適した構造です。

歯周病がある患者への配慮

歯周病の炎症が残ったまま入れ歯を使うと、痛みや動揺の原因となります。歯周病の治療では必要に応じてブルーラジカルを併用して、歯ぐきの炎症緩和を目指します。適切な口腔ケアを併せることで、入れ歯を「痛くなく、外れにくい状態」で使い続けられるよう配慮しています。

第3章 ゼロシステムのメリット─自然な装着感と精密さ

入れ歯に求められる条件は「噛めること」だけではありません。自然な見た目、会話のしやすさ、長時間つけても疲れにくいことなど、患者の日常生活に直結する要素が多くあります。ゼロシステムは、こうした複数のニーズをバランス良く満たすために生まれた義歯製作システムです。ここでは、従来の入れ歯と比べたときの違いが一目でわかるよう、比較表とともにメリットを整理します。

ゼロシステムと従来義歯の比較表

特徴 ゼロシステム 従来の入れ歯(一般的な製作法)
噛み合わせの精密さ 実際の「噛みしめ」状態を再現し、誤差が少ない 計測段階で誤差が出やすく、何度も調整が必要になる
装着時の痛みや負担 粘膜の動き・たわみを反映し、痛みが出にくい 局所的な負担が集中し、痛みや傷が生じやすい
外れにくさ・安定性 浮き上がりを抑え、長時間でも安定 噛む位置のズレにより外れやすいことがある
発音・食事のしやすさ 薄型設計で舌の動きを妨げず、発音しやすい設計が可能とされる 厚みが出やすく、発音や食事に支障が出る場合がある
製作の再現性 工程が統一され、仕上がりのばらつきが少ない 技術差が出やすく、完成後の調整が大きくなる

精密な噛み合わせが生む「痛みの少なさ」

従来の義歯では、噛む位置のズレが原因で歯ぐきの一点に力が集中し、赤みや痛みが生じることがあります。ゼロシステムは患者が実際に噛んだ状態を記録し、それを入れ歯に反映します。局所的な負担が出にくい痛みの少ない入れ歯を作りやすい点が特徴の一つとされています。

外れにくく、会話も食事も自然

外れにくさは、噛み合わせの安定と入れ歯の吸着に直結します。ゼロシステムは粘膜の動きや圧力分布を正確に計測するため、義歯の浮きを起こしにくく、食事中の外れや会話のしづらさを軽減します。薄めの設計で舌の動きを妨げないため、発音しやすい点もメリットです。

第4章 精密検査とゼロシステムの工程─入れ歯のズレを減らすために行うこと

ゼロシステムの大きな特徴は、最初の型取りの段階から誤差を極力減らすことにあります。従来の入れ歯では、型取りや噛み合わせの計測に生じたわずかなズレが積み重なり、「痛い」「外れやすい」「噛みにくい」といったトラブルにつながっていました。ここでは、ゼロシステムで行われる精密検査と、入れ歯が完成するまでの主な流れを詳しく見ていきます。

1. 初診・お口全体のチェックと治療

初診では以下の点を総合的に確認します。すでに入れ歯を作ったことがある場合は、入れ歯の状態も併せて確認します。

  • 歯ぐきの形や厚み
  • 残っている歯の位置・向き・ぐらつき
  • 噛み合わせの癖(どこで噛みやすいか)
  • 顎関節や筋肉の状態

歯周病の炎症が強い、粘膜が傷ついている場合には、そのまま義歯製作に進むと痛みや不具合の原因になります。その場合はクリーニングや歯周治療を優先します。歯ぐきの炎症を緩和させるために、ブルーラジカルなどを用いた殺菌的な処置を併用することもあります。

2.予備的な型取り(簡易印象)

この段階では、お口全体の形を把握するための簡易的な型取りを行います。
顎の大きさや歯ぐきの形状を大まかに把握します。

3. 噛み合わせの記録──専用装置で「普段の噛む位置」を見える化

入れ歯治療でもっとも重要な要素のひとつが、噛み合わせの位置をどれだけ正確に捉えられるかです。暗くて狭いお口の中で、患者さんが動きながら噛んでいる状態を目視だけで把握するのは難しく、従来はどうしても術者の感覚に頼らざるを得ませんでした。

ゼロシステムでは、以下の方法でズレの少ない噛み合わせを計測します。

  • 噛み合わせを確認するための専用装置を使用する
  • 患者ごとの「普段噛んでいる位置」を確認しながら記録する

この装置をもとに義歯を設計することで、左右のバランスが整った入れ歯を作成することができます。「どこで噛んでよいか分からない」「上下の歯がうまく合わない」といった困りごとを減らせます。

4. 仮入れ歯での確認と最終調整

精密に計測したデータをもとに仮入れ歯を作り、以下の点を確認します。

  • 見た目(歯の形・色・並び方)
  • 噛みやすさ・話しやすさ
  • 長時間装着したときの当たり具合

この段階で噛みしめたときの歯ぐきのたわみを再現した型取りを行い、最終的な形態に近づくように反映させます。仮入れ歯を使うことで「完成してから大きく削り直す」「やり直しになる」といった事態を減らします。
その後、歯科技工士が仕上げ、歯科医院で微調整を行って治療完了となります。たとえ厳密に設計しても違和感をゼロにすることは難しいため、歯科医院で必要最低限の微調整は行います。

ゼロシステムでは精密検査・型取り・噛み合わせ記録のすべての工程でズレを減らす工夫が行われています。その積み重ねが「痛くなりにくい」「外れにくい」「噛みやすい」入れ歯の作成へとつながっていきます。

まとめ ゼロシステムは誤差の少ない入れ歯作成を目指す新技術

入れ歯の悩みは、噛みにくさ・外れやすさ・痛みなど、日常生活に直結するものが多いことが問題でした。その原因の多くは「型取り」「噛み合わせ」「粘膜のたわみ」といった工程で生じる「わずかなズレ」にあります。ゼロシステムは、このズレを徹底的に減らすことを目的に開発された新しい義歯製作システムで、従来の入れ歯に比べてより精緻にお口の情報を収集します。

デジタル技術による再現性の高い製作工程、専用装置を用いた精密な噛み合わせ記録、噛んだ状態の粘膜を再現する型取り、など、ひとつひとつの工程が最適化されています。その結果、痛みが出にくく、外れにくく、噛みやすさの向上を目指した形態が取り入れられています。長時間装着時の負担軽減を目指した設計が特徴です。

入れ歯治療は「どの素材を選ぶか」だけでなく、「どのような工程で作るか」が仕上がりを大きく左右します。ゼロシステムは工程の精密さを重視することで、患者一人ひとりの口に合う義歯をめざす治療法です。これまで入れ歯で悩んできた方、より自然な使い心地を求める方は、選択肢のひとつとして検討しても良いかもしれません。

 

作成日 2025年12月20日

参考文献

有床義歯補綴診療のガイドライン 2009改訂版
 https://www.hotetsu.com/s/doc/plate_denture_guideline.pdf

「ZERO SYSTEM」キーワード解説(クインテッセンス・キーワード辞典)
 https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/41229

担当した診療所

ファミリー歯科

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〒283-0068 千葉県東金市東岩崎2-25-14

電話番号:0475-55-8111

千葉県東金市で30年以上にわたり、地域の皆さまに寄り添った歯科医療を提供してきたクリニックです。

お口のトラブルの原因を丁寧に見極め、ご希望に沿った治療計画をご提案。
担当制による継続的なサポート体制を整え、安心して通える環境づくりに取り組んでいます。

また、歯友会のミッションである「地域に安心と革新をもたらし、健康を未来へつなぐ」という想いのもと、わかりやすい説明と高精度な治療技術の導入にも力を入れています。

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