歯磨きで血が出るのは歯肉炎？原因と正しい治し方・予防法を解説

「歯磨きをすると歯ぐきから血が出る」「以前より歯ぐきが赤く腫れている気がする」
こうした小さな変化に心当たりはありませんか。
つい「少し強く磨きすぎただけ」「そのうち治るだろう」と様子を見がちですが、その症状に歯肉炎が隠れていることがあります。

歯肉炎は歯ぐき（歯肉）に炎症が起きている状態です。主な原因は、歯の表面や歯と歯ぐきの境目にたまるプラーク（歯垢）に含まれる細菌です。初期段階では痛みがほとんどなく、日常生活に大きな支障が出にくいため、気づかないまま放置されるケースも少なくありません。

しかし、歯肉炎は適切なケアを行えば改善が期待できる可能性があります。歯肉炎の炎症は歯ぐきに留まり、歯を支える骨まで炎症が進んでいません。毎日のセルフケアの見直しや歯科医院での専門的なクリーニングで歯ぐきの健康を取り戻せる可能性があります。逆に歯肉炎を長期間放置すると、より症状が進行して歯周病へ移行するリスクが高まります。

本記事では、「歯肉炎　治し方」という視点から、歯肉炎の基本的な仕組みや原因、日常生活でできる対策、歯科医院で行われる治療の考え方を解説します。歯ぐきの違和感に早めに気づき、早期に対処するための一助になれば幸いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。症状や治療については歯科医の診断を優先してください。

 

第1章　歯肉炎とは？歯周病との違いと進行の仕組み

歯肉炎は、歯のまわりにある歯ぐき（歯肉）に炎症が起きる症状です。歯の表面や歯と歯ぐきの境目に付着するプラーク（歯垢）が炎症を引き起こします。プラークは細菌のかたまりで、1㎎の中に10億個以上の細菌が繁殖しているとされています。プラークを放置すると歯ぐきに刺激を与え、赤く腫れたり、歯磨きの際に出血したりするようになります。

しかし、歯肉炎の段階では、炎症は歯ぐきのみにとどまっています。歯を支える骨（歯槽骨）には影響が及んでいません。そのため、痛みがほとんど出ないことが多く「気のせい」「一時的なもの」と見過ごされがちです。しかし、目に見える症状が軽くても、歯ぐきの内部では炎症反応が起きています。

出典：厚生労働省 プラーク / 歯垢（ぷらーく）
 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/teeth/yh-031

歯肉炎と歯周病（歯周炎）の違い

歯肉炎と混同されやすい病気に歯周病があります。歯周病は、歯肉炎がさらに進行し、歯ぐきだけでなく歯を支える骨にまで炎症が広がった状態です。つまり、歯肉炎は歯周病の初期症状です。

大きな違いは、炎症の範囲と回復のしやすさです。歯肉炎の段階であれば、原因となるプラークを取り除き、正しいケアを続けることで、歯ぐきの状態が改善する可能性があります。一方、歯周病まで進行すると完治は極めて難しくなります。失われた骨は自然には元に戻らないため、治療の目的は「進行を抑えること」が中心になります。歯周病になる前に対処することが、いかに大切か分かるでしょうか。

なぜ歯肉炎は気づきにくく、進行しやすいのか

歯肉炎が厄介なのは、自覚症状が乏しいまま進行しやすい点です。初期には強い痛みが出にくく、出血も歯磨きのときだけというケースが少なくありません。そのため、つい症状を放置してしまうことがあります。

歯ぐきの炎症は一時的に落ち着いたように見えることもありますが、原因となるプラークが残っていれば、再び炎症が起こります。この状態を繰り返すうちに歯ぐきの防御機能が弱まり、歯周病へと進行するリスクが高まります。歯肉炎は「軽いから大丈夫」と考えるのではなく、「今なら改善を目指せるサイン」と捉えることが大切です。

第2章　歯肉炎の主な原因　なぜ歯ぐきに炎症が起こるのか

歯肉炎は、ある日突然起こるものではなく、日々の生活や口腔環境の積み重ねによって少しずつ進行します。歯ぐきの腫れや出血といった症状は結果として表れているもので、その背景には原因があります。「なぜ炎症が起きたのか」を知ることで症状を改善し、再発を防ぐ一助になるでしょう。

プラーク（歯垢）の蓄積による細菌刺激

歯肉炎のもっとも大きな原因は、歯の表面に付着するプラーク（歯垢）です。プラークは食べかすではなく細菌が集まってできた膜状のかたまりで、わずか数時間で形成されます。特に歯と歯ぐきの境目はブラシが届きにくく、プラークが残りやすい部位です。

このプラークに含まれる細菌が出す毒素が歯ぐきを刺激すると、体は防御反応として炎症を起こします。その結果、歯ぐきが赤く腫れたり、軽い刺激で出血したりするようになります。毎日歯磨きをしているつもりでも、磨き残しがあると歯肉炎につながります。

歯磨き方法や歯並びによる磨き残し

歯肉炎は歯磨きの「回数」よりも「質」が影響するケースが少なくありません。強く磨きすぎたり、歯の表面だけをなぞるような磨き方になっていたりすると、肝心の歯と歯ぐきの境目の汚れが落としきれないことがあります。

また、歯並びの状態によっては、歯が重なっている部分や奥歯の裏側など、どうしても磨き残しが生じやすい箇所があります。こうした部位にプラークがたまり続けると、局所的に歯肉炎が起こりやすくなります。見た目では分かりにくい場所ほど、炎症が進んでいることもあります。

生活習慣や全身状態の影響

歯肉炎は口の中だけの問題ではなく、生活習慣や体の状態とも関係しています。たとえば喫煙は歯ぐきの血流を悪くし、炎症が起きやすい環境を作ることが知られています。また、睡眠不足や強いストレスが続くと、免疫機能が低下し、細菌への抵抗力が弱まることがあります。

妊娠や更年期などホルモンバランスが大きく変化する時期には、歯ぐきが炎症を起こしやすくなることがあります。女性ホルモンのエストロゲンは細菌の増殖を促し、プロゲステロンは炎症の原因物質プロスタグランジンを刺激することが知られています。これらのホルモンが急激に増える妊娠期は歯周病リスクが特に上がります。
 更年期には唾液分泌が減り、口腔内を守る力が低下しやすくなります。

このように、歯肉炎は複数の要因が重なって発症・悪化することが多いのが特徴です。「歯磨きだけ気をつければよい」では不十分なことがあります。

出典：日本臨床歯周病学会　歯周病と妊娠-1
 https://www.jacp.net/pdf/leaflet/leaflet_04.pdf

第3章　歯肉炎の治し方　セルフケアと歯科医院での対応

歯肉炎は、原因に応じた適切な対応を行うことで改善が期待できる状態です。「自分でできること」と「歯科医院で行うべきこと」を分け、無理のない形で続けることで治癒しやすくなります。ここでは、歯肉炎の治し方をセルフケアと歯科医院での対応に分けて整理します。

歯肉炎のケアと治療法

対応の種類	内容	期待できる効果
セルフケア	正しい歯磨き、歯間ケア、生活習慣の見直し	プラークの減少、炎症の軽減
歯科医院での基本処置	歯石除去、専門的クリーニング	セルフケアでは落とせない汚れの除去
状態に応じた追加対応	炎症の評価、必要に応じた治療提案	歯周病への進行予防

セルフケアで意識したい歯肉炎対策

歯肉炎の改善において、毎日のセルフケアは欠かせません。特に重要なのは、歯と歯ぐきの境目を意識した歯磨きです。力を入れて磨く必要はなく、歯ブラシの毛先をやさしく当て、小刻みに動かすだけでプラークは除去できます。

歯間ブラシやデンタルフロスを併用することで、歯ブラシだけでは届きにくい部分のプラーク除去が期待できます。しかし誤った使い方をすると歯ぐきを痛めるので、歯科衛生士の指導を受けてから使うことをおすすめします。

また、喫煙習慣や不規則な生活が続くと、歯ぐきの回復を妨げることがあります。歯肉炎は生活習慣の影響を受けやすいため、口腔ケアとあわせて体調管理を意識しましょう。

歯科医院の歯肉炎治療

セルフケアだけでは十分に改善しない場合や、歯石が付着している場合は、歯科医院での処置が必要です。歯石はプラークが硬くなったもので、家庭で取り除くことはできません。歯科医院では専用の器具を使って歯石や汚れを除去し、歯ぐきの炎症を起こしにくい環境を整えます。

歯肉炎の段階では、基本的なクリーニングやブラッシング指導が中心となることが一般的です。なお、歯周病治療の分野ではブルーラジカルと呼ばれる治療法などを選択することがありますが、歯肉炎に対してはまず基本的なケアと処置が優先されます。

「様子見」にしないことが改善への近道

歯肉炎は軽症に見えることが多いため、受診のタイミングを逃しやすい傾向があります。出血や腫れが続く場合はセルフケアだけでは不十分なので、歯科医院で一度確認してもらいましょう。早めに対応することで、歯ぐきの健康を取り戻しやすくなります。

第4章　歯肉炎を繰り返さないための予防と受診の目安

歯肉炎は、一度改善しても生活習慣や口腔ケア不足で再発しやすいのが特徴です。ここでは、歯肉炎を予防するためのポイントと、歯科医院の受診を検討したいタイミングをチェックリスト形式で整理します。

歯肉炎を予防するためのチェックリスト

以下の項目を、日常生活のなかで定期的に振り返ってみましょう。

• □ 歯と歯ぐきの境目を意識して、やさしく歯磨きができている
• □ 歯ブラシだけでなく、デンタルフロスや歯間ブラシを使っている
• □ 出血があっても、磨くのを避けず適切なケアを続けている
• □ 定期的に歯科医院でクリーニングを受けている
• □ 喫煙習慣がある場合、歯ぐきへの影響を理解している
• □ 睡眠不足や強いストレスが続いていないか意識している

これらは特別なことではなく、歯ぐきの健康を保つための基本的な習慣です。一つでも不安な項目がある場合は、ケアの見直しを検討しましょう。

歯科医院の受診を検討したいサインのチェックリスト

次のような状態が続く場合は、早めに歯科医院へ相談することをおすすめします。

• □ 歯磨きのたびに出血があり、数週間たっても改善しない
• □ 歯ぐきの腫れや赤みが引かない
• □ 口の中がねばつく感じが続いている
• □ 以前より歯ぐきが下がったように感じる
• □ セルフケアを見直しても症状が変わらない

歯肉炎は、早期であれば比較的改善しやすい状態です。「まだ大丈夫」と自己判断するよりも、専門家に確認してもらうことで安心につながるケースも少なくありません。

予防は「継続」が最も重要

歯肉炎の予防で最も大切なのは、基本的なケアを毎日無理なく続けることです。
正しい歯磨きや歯間ケアは、数日行っただけで劇的な変化が出るものではありませんが、毎日の積み重ねによって歯ぐきの環境を少しずつ整えていきます。反対に、忙しさや自己判断でケアを中断すると、プラークは再び蓄積し、歯肉炎が再発しやすくなります。

また、歯ぐきの状態は自分では変化に気づきにくいことがあります。定期的に歯科医院でチェックを受けることで、磨き残しの癖や炎症の兆しを早い段階で把握できます。歯肉炎は「治ったら終わり」ではなく、「良い状態を保ち続ける」ことが重要です。日常のセルフケアと専門家のサポートを組み合わせ、歯ぐきの健康を長く守っていく意識が、将来的な歯周病予防にもつながります。

まとめ　歯肉炎で症状を抑えるために

歯肉炎は、歯ぐきに起こる初期の炎症であり、早い段階で適切に対処すれば改善が期待できる状態です。歯磨き時の出血や歯ぐきの腫れといった小さな変化は、体からの大切なサインでもあります。「よくあること」「一時的なもの」と見過ごさず、原因を理解して対処しましょう。

歯肉炎はプラーク（歯垢）の蓄積や磨き残し、そして生活習慣や体調の影響などが重なって起こります。そのため、日々のセルフケアの見直しと、歯科医院での専門的なケアを組み合わせることが改善の第一歩です。特別な治療に頼る前に、基本的なケアを丁寧に続けることが、改善への近道になります。

歯肉炎は痛みが少ないため放置されやすいですが、進行すると歯周病へ移行する可能性があります。気になる症状が続く場合は、自己判断で様子を見るのではなく、歯科医師に相談することで安心につながります。日常の小さな積み重ねと早めの対応が、将来の歯の健康を支える大きな力になります。

 

作成日 2025年12月20日

参考文献

日本歯周病学会　歯周病Q＆A
 https://www.perio.jp/qa/

厚生労働省 e-ヘルスネット　歯周病とは
 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-03-001

厚生労働省 e-ヘルスネット　歯周病の予防と治療
 https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-03-006