歯肉炎が気になる人は知っておきたい 歯磨き粉の役割と歯磨き習慣
2025.12.28
はすぬま⻭科
「歯磨きのときに血が出る」「歯ぐきが赤く腫れている気がする」「以前より歯ぐきがムズムズする」
こうした変化に気づいたとき、歯磨き粉を変えれば改善するのでは、と考える方は少なくありません。実際、インターネットで「歯肉炎 歯磨き粉」というキーワードで情報を探す方は多く、セルフケアで何とか改善したいという思いがうかがえます。
歯肉炎は、歯と歯ぐきの境目にたまったプラーク(歯垢)によって起こる、比較的軽度な炎症です。初期段階では痛みが少ないため見過ごされがちですが、放置すると歯周病へ進行する可能性もあります。そのため、早い段階で正しい対処を知ることが大切です。
ただし、歯磨き粉はあくまで口腔ケアを支える「補助的な存在」です。どの歯磨き粉を使うかよりも、毎日の適切な歯磨きやケア習慣が歯肉炎の症状に大きく影響します。歯磨き粉に過度な期待を寄せてしまうと、本来見直すべきポイントを見落としてしまうことがあります。
この記事では、歯肉炎の基本的な考え方を押さえたうえで、歯磨き粉が果たす役割と限界、そして歯肉炎改善に大切なポイントを解説します。
目次
監修した先生
奈良 倫之 先生
医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長
第1章 歯肉炎の正体を知る ― 歯磨き粉を考える前に押さえたい基本知識
歯肉炎対策として歯磨き粉に注目が集まりやすいですが、まずは「歯肉炎とは何か」「なぜ起こるのか」という基本的な仕組みを理解しましょう。原因を知ることで、歯磨き粉の位置づけも理解しやすくなります。
歯肉炎とは?歯周病との違い
歯肉炎は、歯ぐき(歯肉)に起こる炎症です。歯と歯ぐきの境目にプラーク(歯垢)がたまり、その中に含まれる細菌が歯ぐきを刺激することで発症します。
歯ぐきが赤く腫れたり、歯磨き時に出血しやすくなったりするなどの症状が表れます。歯肉炎は強い痛みがないことが多く、「少し違和感がある」「血が出やすい」といった軽い症状から始まります。
一方、歯周病は歯肉炎が進行し、歯を支える骨(歯槽骨)にまで炎症が進み、顎の骨の破壊が始まる状態です。歯肉炎の段階では骨の破壊はなく、適切なケアを行えば健康な状態に戻る可能性があります。この「元に戻せる可能性が高い」という点が、歯周病との大きな違いです。そのため、歯肉炎の段階で対処することが、口腔内の健康を守るために欠かせません。
歯肉炎の主な原因は「磨き残し」
歯肉炎の最大の原因は、歯磨きや口腔ケアが不十分なことによる磨き残しです。どれほど丁寧に歯磨きをしているつもりでも、歯と歯ぐきの境目や歯と歯の間は汚れが残りやすく、知らないうちにプラークが蓄積していきます。プラークは単なる食べかすではなく細菌の塊です。歯の間に細菌が停滞していると考えると、放置してはいけないと理解できると思います。プラークを放置すると歯ぐきに炎症を起こします。
歯肉炎の対策は「プラーク(細菌の塊)を取り除くこと」です。歯磨き粉はその手助けをするアイテムですが、磨き残しが多いとプラークが落としきれず、十分な効果は期待できません。まずは口腔内の汚れを物理的に落とすことが基本で、歯磨き粉は補助的なサポート役です。
歯磨き粉だけで歯肉炎は治るのか
「歯肉炎に効く歯磨き粉を使えば治るのでは」と考える方もいますが、歯磨き粉だけで歯肉炎を治すことは難しいのが実情です。歯磨き粉には抗炎症作用や殺菌作用をもつ成分が含まれているものがあり、炎症を抑えるサポートは期待できます。しかし、原因となるプラークが十分に除去されなければ、炎症は何度も繰り返します。
また、歯肉炎がすでに進行している場合や、歯石が付着している場合には、セルフケアだけでは改善が難しくなります。歯石は歯磨きでは取り除けないため、歯科医院での専門的なクリーニングが必要です。歯磨き粉は「正しい歯磨きを前提に効果を発揮するもの」であり、万能な治療手段ではないことを理解しておくことが、結果的に歯肉炎の早期改善につながります。
第2章 歯肉炎が気になる人の歯磨き粉選び 有効成分と注意点
歯肉炎対策として歯磨き粉を選ぶ際、「どの成分が入っているか」を気にする方は多いでしょう。市販の歯磨き粉の中には歯ぐきの炎症や出血を緩和する成分が配合されているものがあります。ただし、成分の名前だけで良し悪しを判断してしまうと、かえって歯肉炎を長引かせてしまうことがあります。ここでは、歯肉炎の視点から見た歯磨き粉成分の考え方を整理します。
歯肉炎向けの歯磨き粉に多く見られるのは、歯ぐきの炎症を抑える成分や、口腔内の細菌増殖を抑制する成分です。これらはあくまで「炎症を起こしにくい環境づくり」をサポートするものであり、歯肉炎の原因そのものを取り除くものではありません。成分の作用を理解し、過度な期待をしないようにしましょう。
刺激が強すぎる歯磨き粉には注意が必要です。爽快感を重視した発泡性の高いものや、研磨力が強いものは、歯ぐきがすでに炎症を起こしている状態では違和感や痛みを助長することがあります。「スッキリする=歯ぐきに良い」とは限りません。
歯肉炎対策で意識される歯磨き粉成分
| 成分のタイプ | 期待される役割 | 歯肉炎での位置づけ |
|---|---|---|
| 抗炎症作用をもつ成分 | 歯ぐきの腫れ・赤みを抑える | 炎症を和らげる補助的な役割 |
| 殺菌・抗菌作用をもつ成分 | プラーク中の細菌増殖を抑制 | 歯磨き後の環境維持に有効 |
| フッ素 | 歯の再石灰化を促す | むし歯予防が主目的 |
| 低研磨・低刺激設計 | 歯ぐきへの負担を軽減 | 歯肉炎時に適した選択肢 |
歯肉炎対策に使う歯磨き粉は「どの成分が多いか」よりも、「今の歯ぐきの状態に合っているか」で選びましょう。歯ぐきから出血しやすい、ヒリヒリするなどの症状がある場合は刺激の少ない歯磨き粉を選び、やさしい力で磨くことを意識しましょう。
歯磨き粉を変えても症状が改善しない場合、「選び方が間違っている」のではなく、「歯周病に悪化している」可能性もあります。歯磨き粉を変えても改善の手応えがないときは、歯科医院で歯ぐきの状態を確認してもらいましょう。
第3章 歯磨き粉以上に重要な歯磨き方法と生活習慣
歯肉炎の改善や予防で優先して見直したいのは、歯磨き粉よりも毎日の歯磨き方法と生活習慣の改善です。どれだけ歯肉炎向けの歯磨き粉を使っていても磨き方が合っていなければ、歯と歯ぐきの境目にプラークは残り続けます。歯肉炎対策の基本は、歯ぐきに負担をかけず、汚れを確実に落とすことです。
歯ブラシの使い方
まず意識したいのが、歯ブラシの当て方と力加減です。プラークを取り除きたい一心で力が入りすぎることがありますが、強い力で磨くと歯ぐきを傷つけ、炎症を悪化させる原因になります。プラークは弱い力でもある程度は除去できます。歯ブラシは歯と歯ぐきの境目に軽く当て、小刻みに動かしましょう。毛先が広がらない程度の力を意識するだけでも、歯ぐきへの刺激は大きく緩和します。
歯間ケア
次に重要なのが、歯間のケアです。歯ブラシだけでは、歯間部の汚れを十分に落とすことは難しく、ここにプラークが残ると歯肉炎が長引きやすくなります。歯ブラシだけでは6割ほどしかプラークが取り除けませんが、デンタルフロスを併用することで9割弱も除去することが報告されています。歯磨きに加え、歯間ケアを習慣に取り入れましょう。
- 歯ブラシはやさしい力で、歯と歯ぐきの境目を意識して動かす
- 歯間ブラシやデンタルフロスを併用し、歯と歯の間の汚れを除去する
出典:日本歯科医師会 歯の学校Vol.74 ハブラシだけでは、歯垢を落としきれないってホント?
https://www.jda.or.jp/hanogakko/vol74/nazenani.html#article01
生活習慣の改善を
生活習慣も歯ぐきの状態に影響します。睡眠不足や強いストレスが続くと体の免疫機構が低下し、歯ぐきの炎症が治まりにくくなることがあります。また、喫煙は歯ぐきの血流を悪化させ、歯肉炎や歯周病の進行リスクを高める要因として知られています。歯磨き粉や歯磨き方法だけでなく、日常生活全体を見直しましょう。
第4章 セルフケアで改善しないときは歯科受診を
歯肉炎はセルフケアで改善が期待できますが、すべてのケースが自宅での歯磨きだけで良くなるわけではありません。歯磨き粉を見直し、磨き方や生活習慣にも気を配っているのに症状が続く場合は、できるだけ早く歯科医院で診てもらいましょう。この章では、「どのタイミングで歯科を受診すべきか」「歯科ではどのようなケアが行われるのか」を整理します。目安として、正しい歯磨きを2〜3週間続けても出血や腫れが改善しない場合は、歯科医院での確認をおすすめします。
セルフケアの限界サインは?
歯肉炎は軽度であれば改善しやすい傾向はありますが、セルフケアだけでは対応しきれないこともあります。代表的なサインは、歯磨き時の出血が長期間続くケースです。数週間ほど正しい歯磨きを続けても出血が減らない場合、歯ぐきの炎症が強い可能性があります。歯石が付着している可能性もあります。
また、歯ぐきの腫れが引かない、触れると痛みがある、口臭が気になるといった変化も、歯科で診察することが望ましいサインです。歯肉炎の範囲を超え、歯周病へ進行し始めていることもあります。「歯磨き粉を変えれば何とかなる」と自己判断で様子を見ずに、早めに歯科を受診しましょう。
歯科医院で行われる歯肉炎・歯周病の基本ケア
歯科医院では、まず歯ぐきの状態や歯周ポケットの深さを確認し、炎症の程度を評価します。そのうえで行われるのが、歯の表面や歯と歯ぐきの境目に付着したプラークや歯石の除去です。歯石は歯磨きでは取り除けないため、専門的な器具を使ったクリーニングが必要になります。
併せて、歯磨き方法の指導を行います。患者さん一人ひとりの歯並びや歯ぐきの状態に合わせて、歯ブラシの当て方や補助清掃用具の使い方を確認することで、正しいセルフケアができるようになります。歯磨き粉も現在の口腔状態に合った成分を説明してもらえるため、自己流で選ぶよりも安心感があります。
補助的な選択肢としてのブルーラジカル
歯肉炎から歯周病に進行した場合、歯科医院ではさまざまな治療法が検討されます。その中には、歯周ポケットにいる細菌へのアプローチを目的とした「ブルーラジカル」と呼ばれる方法が選択肢として挙げられることもあります。光で殺菌する治療法ですが歯周病治療の補助的な位置づけであり、歯肉炎の段階で必ず導入するものではありません。
歯肉炎治療の基本はプラークや歯石の除去、そして日々のセルフケアです。ブルーラジカルは、通常の治療だけでは炎症のコントロールが難しい場合に検討されることがあり、歯磨き粉や歯磨き方法の代わりになるものではありません。
歯肉炎の段階ならまだ対処は可能です。まずは歯科医師と相談しながら、自分の口腔状態に合った治療と指導に従って対処しましょう。
まとめ 歯磨き粉はサポート役、まずはプラーク除去を
歯肉炎は、歯と歯ぐきの境目にたまったプラーク(歯垢)が原因で起こる、比較的軽度な炎症です。初期症状なら毎日のセルフケアを見直すことで改善が期待できますが、歯磨き粉だけに頼るのは適切とは言えません。歯磨き粉は歯肉炎を「治す薬」ではなく、正しい歯磨きを支える補助的なアイテムのひとつです。
歯肉炎対策では、まず磨き残しを減らすことが最優先です。歯と歯ぐきの境目を意識したやさしいブラッシングや、歯間ケアの習慣化によって、歯ぐきへの刺激を抑えながらプラークを除去することができます。歯磨き粉は、歯ぐきの状態に合った低刺激のものを選び、無理のないケアを続けるためのサポートとして活用するとよいでしょう。
セルフケアを続けても出血や腫れが改善しない場合は、歯科医院の受診が欠かせません。歯石の付着や歯周病への進行があると家庭でのケアだけでは対応が難しくなります。歯科での歯石除去やクリーニング、歯磨き指導を受けることで、歯肉炎の改善だけでなく、再発予防にもつながります。
歯肉炎は、早い段階で無理のないケアを継続すれば、健康な状態を取り戻しやすい傾向があります。歯磨き粉を上手に取り入れながら日々の歯磨き習慣を見直し、気になる症状があれば早めに歯科に相談することで、将来の歯周病予防にもつながります。
作成日 2025年12月22日
参考文献
日本歯周病学会 歯周治療のガイドライン 2022
https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_2022.pdf
厚生労働省 e-ヘルスネット「歯周病の予防と治療」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-03-006
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