子供の指しゃぶりは歯並びに影響する?年齢別の注意点と歯科受診の目安
2025.12.28
はすぬま⻭科
「子どもの指しゃぶりは、歯並びに悪影響があるのではないか」――こうした不安を抱く保護者の方は少なくありません。特にインターネットや育児書では、「指しゃぶり=出っ歯になる」「早くやめさせないと矯正が必要になる」といった情報が目に入りやすく、心配が先行してしまうこともあるでしょう。
しかし、指しゃぶりは多くの子どもに見られるごく自然な行動であり、すべてが歯並びの乱れに直結するわけではありません。成長や発達の過程で自然に消えていくケースも多く、年齢や頻度、指しゃぶりの強さによって影響の出方は大きく異なります。
しかし一定の条件が重なると、歯や顎の成長に影響を及ぼす可能性があることも、歯科の分野では指摘されています。そのため大切なのは、「いつまでにやめさせるべきか」と焦ることではなく、「どのような状態であれば注意が必要なのか」を正しく知ることです。
- 子供の指しゃぶりが歯並びに影響するケースと、心配しすぎなくてよいケースの違い
- 年齢・頻度・強さを踏まえた、様子見でよい目安と歯科受診を考えたいタイミング
- 指しゃぶりだけにとらわれず、歯並びに関わる生活習慣と家庭でできる関わり方
本記事では、子どもの指しゃぶりと歯並びの関係を、発達段階や歯科医学の視点から整理し、様子を見てよいケースと歯科相談を考えたいケースの違いを解説します。過度に不安にならず、適切に向き合うための判断材料としてお読みください。
目次
監修した先生
奈良 倫之 先生
医療法人社団 歯友会 理事長
ファミリー歯科 院長
第1章 指しゃぶりは成長のサイン?発達段階から見た歯並びとの関係
指しゃぶりは単なる癖として捉えられがちですが、子どもの発達過程を理解すると、見え方が大きく変わります。この章では「なぜ子どもは指しゃぶりをするのか」を軸に、成長や心理との関係を整理します。無理にやめさせることが必ずしも正解ではない理由を知ることが大切です。
胎児期から備わっている「吸う」行動
指しゃぶりは生まれる前からあります。胎児はお腹の中にいる頃に指を口に運ぶことがあります。これは「吸啜反射(きゅうてつはんしゃ)」と呼ばれる本能的な行動です。生後しばらく、母乳やミルクを飲むために不可欠な反射で、口に何かを入れて吸うこと自体が発達の一部といえます。そのため、乳児期から幼児期にかけての指しゃぶりは、生理的に自然な行動です。
安心感を得るための自己調整行動
成長とともに、指しゃぶりは栄養摂取のためだけでなく、気持ちを落ち着かせる行動へと役割を変えていきます。眠いときや不安を感じたとき、環境が変わったときなどに指しゃぶりが増えるのは、子ども自身が安心感を得るための「自己調整」の一つです。大人が深呼吸をして気持ちを整えるのと似た働きと考えると理解しやすいでしょう。この段階では、心理的な安定を優先して見守る姿勢が求められます。
無理にやめさせることで起こる影響
指しゃぶりを「歯並びに悪いから」と強く制限すると、かえってストレスが増し、別の癖(爪噛みや唇噛みなど)に置き換わることがあります。また、叱責や過度な注意は、子どもの自己肯定感に影響する可能性も指摘されています。歯並びへの影響を考える際も、まずは発達や心理面を理解したうえで、年齢や頻度、指しゃぶりの強さを総合的に見るようにしましょう。
第2章 指しゃぶりが歯並びに影響する仕組み
指しゃぶりが歯並びに影響するといわれるのは、歯や顎が成長途中にある子ども特有の事情があります。乳歯や生え替わり期の歯、やわらかい顎の骨は、大人と比べて外からの力の影響を受けやすいものです。指が口の中に長時間入ることで、少しずつ歯の位置が変化していくことがあります。ただし、ここで重要なのは「指しゃぶり=必ず歯並びが悪くなる」わけではない点です。指しゃぶりの影響は力のかかり方や継続期間によって大きく左右されます。
歯科の分野では、歯並びへの影響を考える際に「どの方向に、どれくらいの力が、どのくらいの期間加わっているか」が重視されます。指しゃぶりの場合、上の前歯は前方に押されやすく、同時に下の前歯は内側に倒れやすくなります。また、上下の前歯の間に常に指が入ることで、噛み合わせが完成しにくくなることもあります。こうした状態が続くと、成長に伴って歯の位置が固定され、歯並びの乱れとして表面化する可能性があります。
指しゃぶりによって起こりやすい変化として、歯科でよく挙げられるものは次のとおりです。
- 上の前歯が前に傾く(出っ歯の状態)
- 前歯が噛み合わず、上下にすき間ができる(開咬)
- 上顎が前方に成長しやすくなる
これらは短期間で生じるものではありません。多くの場合、数年単位で同じ習慣が続くことで、少しずつ形が変わっていきます。特に注意したいのは、日中も頻繁に指しゃぶりをしている、眠っている間ずっと続いているなど、無意識のうちに長時間力が加わっているケースです。寝ている間は筋肉がリラックスしているため、歯や顎にかかる影響が持続しやすいと考えられています。
一方で、同じ指しゃぶりでも影響が出にくい場合もあります。たとえば、短時間で終わる、頻度が少ない、成長とともに自然に減っているといったケースでは、歯並びに大きな変化が起こらないことも珍しくありません。歯や顎は成長の途中で変化する力を持っており、軽度であれば自然に戻る可能性もあります。
このように、指しゃぶりと歯並びの関係は一律ではなく、「頻度」「時間」「力の強さ」「年齢」という複数の要素が組み合わさって判断されます。次の章では、これらの要素を踏まえながら、年齢別に「様子を見てよいケース」と「歯科相談を考えたいケース」を具体的に整理していきます。
第3章 年齢別に見る指しゃぶりと歯並びの関係 様子見でよいケースと注意したいケース
指しゃぶりによる歯並びへの影響は、「何歳までしているか」だけで単純に判断できるものではありません。年齢ごとに歯や顎の成長段階が異なるため、同じ指しゃぶりでも影響の度合いが変わってきます。そのため、小児歯科では年齢と行動の特徴をあわせて評価することが重要とされています。
乳幼児期は歯や顎が柔軟で、成長の余地が大きい時期です。この段階で見られる指しゃぶりの多くは、生理的・心理的に自然な行動であり、歯並びへの影響を過度に心配する必要はありません。一方、年齢が上がるにつれて歯の生え替わりや噛み合わせが形成されるため、指しゃぶりの影響が固定化しやすくなります。
年齢別・指しゃぶりと歯並びの影響の目安
| 年齢の目安 | 指しゃぶりの位置づけ | 歯並びへの影響 | 保護者の対応の考え方 |
|---|---|---|---|
| 0〜2歳頃 | 発達上の自然な行動 | ほとんど影響なし | 基本的に様子見で問題ない |
| 3〜4歳頃 | 安心感を得る行動が中心 | 頻度・時間によっては影響が出始める | 日中の頻度や癖の強さを観察 |
| 5歳以降 | 習慣として定着しやすい | 歯並び・噛み合わせに影響が出やすい | 小児歯科への相談を検討 |
※あくまで一般的な目安であり、成長や生活習慣によって個人差があります。
特に注意したいのは、5歳以降になっても日常的に指しゃぶりが続いている場合です。この時期は、乳歯から永久歯への生え替わりが始まり、噛み合わせの基礎が作られます。ここで指による力が加わり続けると、前歯の傾きや噛み合わせのズレがそのまま固定される可能性があります。
ただし、年齢だけで判断するのはおすすめしません。「日中も頻繁にしているか」「眠っている間も続いているか」「指を強く吸っているか」といった日常の行動を見ることが大切です。次章では、指しゃぶり以外にも歯並びに影響を与える生活習慣や口の使い方について詳しく解説します。
第4章 指しゃぶりだけが原因ではない―歯並びに影響する生活習慣との関係
指しゃぶりは歯並びに影響する要因の一つですが、それだけが原因となるケースは多くありません。複数の生活習慣や口の使い方が重なり合い、歯や顎の成長に影響を及ぼしていることが少なくありません。この章では、指しゃぶりと併せて知っておきたい、歯並びに関係する代表的な要因を整理します。
口呼吸が歯並びや顎の成長に影響することも
口呼吸が歯並びに影響することは意外と知られていません。
口呼吸が習慣化すると口が常に開いた状態になり、舌の位置が低くなりやすくなります。本来、舌は上顎に軽く触れた状態が正しい位置で、歯列の内側から支える役割を担っています。しかし口呼吸では舌が下がるため、内側から支える働きが弱まります。その結果、上顎の横方向の成長が不足し、歯が並ぶスペースが狭くなることがあります。指しゃぶりと口呼吸が同時に見られる場合、歯並びへの影響が強まることがあるため注意が必要です。
舌の癖(低位舌・舌突出)
舌の位置や動かし方の癖も、歯並びに大きく関与します。舌が常に下に下がる「低位舌」や、飲み込む際に舌を前に突き出す癖「舌突出」があると、前歯を内側から押す力が継続的に加わります。これに指しゃぶりが重なると、前歯が噛み合わない状態や、歯列の乱れが生じやすくなります。舌の癖は見過ごされやすいため、日常の様子を意識して観察しましょう。
食事内容や姿勢など日常習慣の影響
やわらかい食事が中心の生活や、猫背などの姿勢の乱れも、顎の発達に影響を与える原因になります。噛む回数が少ないと顎の筋肉や骨への刺激が不足し、歯が並ぶスペースが十分に確保されにくくなります。また、姿勢が崩れると舌や顎の位置も変化し、口周りのバランスが乱れやすくなります。指しゃぶりだけに目を向けるのではなく、こうした生活全体を見直しましょう。
第5章 指しゃぶりとどう向き合う?歯科受診の目安と家庭でできる関わり方
指しゃぶりが歯並びに影響する可能性があると知ると、「いつ受診すべきか」「家庭では何をすればよいのか」と迷う保護者の方も多いでしょう。まず大切なのは、必要以上に不安にならず、子どもの成長段階や口の状態に応じて適切に対応することです。この章では、歯科受診を考える具体的な目安と、日常生活の中でできる関わり方について整理します。判断基準を知っておくことで、落ち着いて行動しやすくなります。
歯科受診を検討したいサイン
指しゃぶりが続いていても、すぐに歯科を受診しなければならないわけではありません。しかし、いくつかのサインが見られる場合には、小児歯科や矯正歯科に相談すると良いでしょう。たとえば、5歳を過ぎても日常的に指しゃぶりが続いている、前歯が噛み合わずすき間が目立つ、上の前歯が明らかに前へ傾いてきたと感じる場合などです。また、口呼吸や発音のしづらさを伴っている場合は、歯並びだけでなく口腔機能全体の検査が必要になることもあります。子どもにとって病院は抵抗が強いですが、受診は「治療のため」だけでなく、「経過観察やアドバイスを受ける場」と考えると心理的なハードルが下がります。
小児歯科・矯正歯科でできることの違い
歯科を受診する際、「小児歯科と矯正歯科のどちらに行くべきか」で迷うことがあります。小児歯科では、成長発達を踏まえた口腔内チェックや、指しゃぶりに対する生活指導、保護者への具体的な声かけ方法などを中心に対応します。矯正歯科では、歯並びや顎の成長を専門的に評価し、将来的な矯正治療の必要性や時期について説明を受けることができます。どちらが正解というわけではなく、年齢や状態に応じて選択することが大切です。迷った場合はまず小児歯科で相談し、必要に応じて専門医につなげてもらう流れが一般的です。
家庭でできる声かけと環境づくり
家庭での関わり方は、指しゃぶりを無理にやめさせることではなく、自然に減っていく環境を整えることです。叱ったり強制したりすると、かえって不安が強まり、別の癖につながることがあります。そのため、「できたらすごいね」「眠る前は手をつないでみようか」といった前向きな声かけが効果的です。また、日中に十分に体を動かし、よく噛んで食事をする習慣をつくることも、口周りの発達を促します。安心できる生活リズムと親子の関わりが、結果的に指しゃぶりの減少につながることも少なくありません。
指しゃぶりへの対応は、歯並びだけを見るのではなく、子どもの心と体の成長全体を意識することが大切です。
迷ったらここだけチェック 指しゃぶりと歯並びの判断ポイント
- 年齢が5歳を過ぎても日常的に指しゃぶりが続いている
- 日中や睡眠中も頻繁に指しゃぶりをしている
- 指を強く吸う癖があり、やめる様子が見られない
- 前歯が噛み合わない・すき間があるなど、歯並びの変化が気になる
- 口呼吸や発音のしづらさを伴っている
▶ これらに1つでも当てはまる場合は、一度は小児歯科で相談してみると安心です。
まとめ 指しゃぶりは成長の一部―必要なタイミングで専門家へ相談を
子どもの指しゃぶりは多くの場合、成長や発達の過程で自然に見られる行動です。指しゃぶりをしているから、必ずしも歯並びに悪影響を及ぼすものではありません。
乳幼児期の指しゃぶりは安心感を得るための大切な行動でもあり、過度に心配したり、無理にやめさせたりする必要はないとされています。一方で、年齢が上がり、頻度や時間が長くなると、歯や顎の成長に影響が出る可能性があることも事実です。
大切なのは、「何歳までなら大丈夫か」と一律に判断するのではなく、指しゃぶりの様子や歯並び、口の使い方などを総合的に見ることです。口呼吸や舌の癖、食事内容といった生活習慣が重なることで、影響が強まる場合もあります。迷いや不安があるときは、早めに小児歯科へ相談し、経過観察やアドバイスを受けることで安心につながります。必要なタイミングで専門家を頼ることが、将来の口腔の健康を守る第一歩といえるでしょう。
作成日 2025年12月22日
参考文献
日本小児科学会雑誌第65巻 第3号,2006(513~515) 指しゃぶりについての考え方
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2006/006503/018/0513-0515.pdf
日本小児歯科学会 「3歳児歯科健康診断における不正咬合の判定基準」
https://www.jspd.or.jp/recommendation/article02/
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